ハロウィンパーティー
投稿者:件の首 (54)
私は着替えの入ったバッグを掴み、居酒屋のトイレに駆け込んだ。
鍵を閉めるのももどかしく、包帯を引き下ろした。
ずるり。
「え」
ずらした包帯は、白くはなかった。
何かが絡みついていた。
間もなく。
それは赤く染まり始めた。
それが自分の血で、絡みついていたものが自分の皮膚であると気付くのに、かなりの時間がかかった。
気が付けば。
身体中の皮膚が崩れていた。
恐怖と、ジワジワ訪れる全身の痛みに、私はただ絶叫するしかなかった。
救急搬送された私に、直ちに処置が行われた。
症状は化学熱傷。
浸透性が高い強アルカリに長時間触れた事により、真皮まで破壊されていたという。
原因はすぐに判明した。
フミカが私に塗ったクリーム。あれに、強アルカリ性のパイプ洗浄剤が混ぜられていたのだった。
フミカは傷害容疑で逮捕された。
動機は「私が醜くなれば、リョウタの心を振り向かせられるから」。
取調の中で、余罪が幾つか出て来た。
彼女はかなり前から様々な手口で「邪魔になる人」を傷つけていたようだ。
結果として、フミカは傷害致傷だけでなく殺人未遂も合わさって実刑判決となった。
治療が終わり、私は退院した。
遠目では分かり難いものの、傷痕は決して消える事はなかった。
人の見た目の美しさというものは、ごく僅かな崩れで壊れてしまう。それを思い知った。
リョウタとの付き合いは続いている。
彼は私の見た目にとらわれず、傷ついた心についても理解してくれている。フミカに対する私の恨みも、きちんと共有してくれている。
同じ傷を負うとさえ言ってくれた。
理解のある彼の、その言葉があれば、私は全てを受け入れる事が出来る。
ミイラのコスプレをリョウタが勧めてくれた事すらも。
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