飾り棚の薄皮のマスク
投稿者:ねこじろう (147)
初めは興味津々だった子供たちもすぐに退屈しだして1人減り2人減り、最後はボクと劉生くん2人だけになっていた。
ボクは「なあもう帰ろうよ」と彼のシャツの袖を引っ張ったのだが何故か彼だけは目をらんらんと輝かしていて、どうやらおじちゃんの話に引き込まれていたようだった。
既に辺りは薄暗くなってきていたので、いよいよ彼を残して帰ろうとしていると、おじちゃんは突然話を止め「おいおい、坊っちゃんまで帰るのかい?お友達1人残して」と毛むくじゃらの大きな手でボクの腕を掴む。ボクは一瞬どうしようか迷ったが、お母さんの怒る顔が頭にちらついていたので「ごめんなさい」と一言言って腕を振り払い、走って家に帰った。
翌朝学校に行き席について一限めの授業を待っていると、
何故か担任が現れて教壇に立ち神妙な顔で話し始めた。
「授業の前に私からみんなに伝えたいことがあります。
実は3組の男子生徒寺田劉生くんが自宅に帰ってきていないと親御さんからさっき学校に連絡がありました。昨晩から親御さんや警察で捜しているのですが、今のところまだ見つかっていないようです。もしみんなの中で何か心当たりのある人がいたら後でいいから、先生のところまで来てください」
─え!?劉生くん、どうしたんたろう?
不安な気持ちのままボクは放課後職員室に行くと、担任の先生に昨日の公園でのことを話した。
話の後、ボクは職員室奥にある別室に連れていかれる。
1人ソファーに座って待っていると、担任はグレーのジャケットを着た体格の良いおじさんと一緒に入ってきて正面のソファーに並んで座った。
おじさんは前屈みになると直ぐに口を開く。
「帰る間際にごめんな。
実はおじさん警察の者なんだけど、昨日の公園でのこと、もう少し詳しく教えてくれないかな?」
言われた通りボクは、昨日の公園でのことを全て喋った。
その間おじさんは熱心にメモをとりながら、いろいろ質問してきた。特に紙芝居のおじちゃんの風体や話した内容とかを細かく尋ねてきた。そして一通り聞き終えるとお礼を言って帰って行った。
これは後から聞いたことだけど、あの紙芝居のおじちゃんは昨日以前にも全国のあちこちの公園に出没していたらしく、今回と同じくその時に見学していた児童の数人が姿を消したということで、警察はいよいよ本格的に捜査を続けていたらしかった。
それから1週間が過ぎ1ヶ月が過ぎたが、劉生くんが見つかることはなかった。
紙芝居のおじちゃんもあの日以来、あの公園に姿を見せることはなかった。
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それから年月はあっという間に過ぎ、幼かったボクも今年30歳になった。
おかげさまで結婚も出来、子供も男の子と女の子2人に恵まれ、今は郊外にある中古の二階建てに家族4人で幸せに暮らしている。
ある夏の終わり頃の日曜日のこと
小学1年生の息子と一緒に夕暮れ時の散歩の途中、近くの児童公園に立ち寄った。
近所の子供たちだけしか利用しないような小さな公園。
ベンチに腰掛け、砂場や遊具で夢中になって遊ぶ息子や他の子供たちの姿を見ていると、
ふとあの日のことを思い出した。
─劉生くん、いなくなってもう何年も経つけど、どうしちゃったのかな、、、
しばらくうつむき、地面に伸びる自らの長い影を眺めながら感傷に浸っていたその時だ。
トン、、、トン、、、トン、、、トン、、
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