トンネルに潜む犬

　男というのはグループになると気が大きくなって度胸試しをしたくなるのはなぜでしょうね。人文学はそれをイニシエーション（集団の一員として認められるためのイベント）と分析したりもしていますが、ともあれ私のいた中学では危険地帯にわざわざ突っ込んでいったり、首を何度かしげても足りないような変な迷惑行為をしたりする男子が多くいました。

　無論、その両方をやらかす奴も存在しました。例えばある男子グループは雨の日の夜、わざわざ町はずれの山道にあるトンネルに徒歩で向かい、そこでエロマンガの回し読みをやったそうです。そのトンネルは一見何の変哲もないただのトンネルでしたが、車通りは少なく、また夏の夜なんかには「出る」ことで知られていました。ところが、彼らはそこでバカ騒ぎをした挙句お菓子の袋をふっ散らかしたりしたのに、オカルトチックな現象は何も起きなかったそうです。

　まあここまで聞けば「何もなくて良かったね」で済む話なのですが……思春期の男子は何かと刺激が欲しいもの。もうわざわざそんなことをするのは止めればいいのに、そうはしませんでした。次は彼らは同じようにそのトンネルで夜、なんとお酒を回し飲みしたんだそうです。すると……悪ガキの一人が見てしまいました。バカ騒ぎをしている連中を睨む一匹の犬を……！　しかし他の人には見えていないようだったので、努めて気にしないようにしていたそうです。しかし、家に帰ってみると……腕や足に何かにひっかかれたようなみみず腫れが多くできていたのだとか。それ以来彼はそのトンネルには行かなくなり、グループの悪ガキとも疎遠になっていったそうです。

　なおそのグループのその後ですが、放課後シンナー遊びをしていたところを教師に見つかってえらいことになったとか。それを見て彼は後にあの犬は見た目はともかく俺にとっては救世主だったのかもなハハハ……だなんて笑っていましたが、犬のオバケに出会った結果こんなことになることもあるんですね。