出来れば知りたくなかった父の秘密
投稿者:ねこじろう (147)
誰かもう一人いるのだろうか?いや、そんなはずない。
俺は疑心暗鬼になりながら、しばらく立ったまま、耳を澄ました。
「ねぇ、愛菜ちゃんのおうちって、どこ?」
愛菜ちゃん?女の子か?
不思議に思いながら、いると、
「洋輝~!洋輝~!」
妻の呼ぶ声が聞こえてきたので、俺は母屋に戻った。
日が暮れた後、母と俺たち家族は食卓のテーブルにつき、夕食の寄せ鍋をつついていた。
母が、妻に小皿に取ってもらった肉を眺めながら、口を開く。
「本当、あの人は新しもの好きだったのよ」
あの人、というのは、俺の父のことだ。
「そうだな、親父は特に電化製品の新商品、いろいろ買っていたなあ、、、
あっ、そう言えば、あの、、、ビデオ録画するやつ、、、あの、何だっけ、、、ええっと、、、
そうだ!ハンディカム、ハンディカム!
あれ、まだあるの?」
ハンディカムというのは、誰でも簡単にビデオが録れるもので、当時は相当話題になったものだ。
「ふふ、、、洋輝ちゃん、何言ってんの?
あれ、いつも、あなたが使っていたじゃないの」
母が、まるで幼い頃の俺を嗜めるように言った。
確かに物珍しさもあって当時高校生だった俺は、いろんな情景を録画しては楽しんでいたのだ。
すると、
「パパ!」
そう言って突然、大輝が立ち上がり隣の和室の方に走り、しばらくするとまた戻ってきた。
手には何か銀色の金属製の箱のようなものを持っている。
俺はそれが何なのか一目見た瞬間、分かった。
大輝は嬉しそうな顔をしながら、それを俺の目の前に置いた。
「ハンディカムじゃないか」
そう言って、俺は、手のひらに収まるくらいのコンパクトなカメラを、しげしげと眺めた。
少し錆び付いてはいるが、これは紛れもなく数十年前に、父が買ってきたものだ。
「大輝、お前、これ、どうしたんだ?」
出来ればそのビデオ売ってほしかったわ。