出来れば知りたくなかった父の秘密
投稿者:ねこじろう (147)
大輝は急に真顔になると、庭にあるプレハブ小屋の方を指差しながら、言った。
「あのね、愛菜ちゃんがくれたの」
「愛菜ちゃん?」
妻が驚いた様子ですっとんきょうな声を出す。
俺は笑いながら「そうだったな、大輝は今朝、愛菜ちゃんと遊んでいたんだよな」と言いながら、カメラ本体に付属した液晶画面を開いてみると、録画用の小型テープが収納されているのが見える。
─このテープには一体、何が録画されているのだろうか?
もう何十年も放置されていたはずだから、動くはずはない。
だから俺はまた液晶画面を閉じると、母が作った鍋をまた食べ始めた。
その翌日の晩のことだ。
会社の新入社員歓迎会に参加した俺が、自宅マンションに帰りついたとき、時刻は11時を過ぎていた
既に、妻と息子は寝ているのだろう。
玄関以外の電気は全て消されていて、シンと静まり返っていた。
軽くシャワーを浴びて部屋着に着替える。
そして自分の部屋に行くと、出勤前からA C アダプターを繋いで充電していたハンディカムを手に取り、再び居間に戻った。
ソファーに座り、液晶画面を開くと、少し緊張した気分で、再生ボタンを押してみる。
信じられないことに、画面には画像が現れ、動き始めた。
恐らく学生の頃の友人たちとか、付き合っていた彼女とか、沈んでいく夕陽とか、まあとりとめのないものがごちゃごちゃ写り混んでいるのだろう、と思っていたのだが、それは全く違っていた。
初めは薄暗い部屋の中の様子が映っていた。
粒子が荒く少し分かりにくかったのだが、それは紛れもなく、かつて俺が暮らしていたプレハブ小屋の中の様子だった。
壁に貼られたアイドルのポスター。
ノートとペンが置かれたままの勉強机。
空の缶ジュースが転がる床
、、、
懐かしい学生の頃の思い出が走馬灯のように、目の前に浮かんできた。
部屋の中の情景がしばらく続くと画面は制止し、今度は微かだが人の声が聞こえてきた。
最初はよく聞き取れなかったのだが、やがて、それは誰かの泣き声というのが分かった。
そして画面中央に、いきなり人の姿が現れる。
切り揃えた黒い前髪。
薄いピンクのトレーナーにスカート、、、
それは女、、、というか、まだ幼い女の子だ。
出来ればそのビデオ売ってほしかったわ。