もしも財布を拾ったら
投稿者:キミ・ナンヤネン (88)
メガネは淡々とパソコンで調書らしきものを入力している。
「例えば、道端の草むらとか、川の橋のたもとに中身を抜き取られた財布が落ちていたりしますよね。」
「池の水を抜いたりしたあとの池の底から見つかった何年も前の財布とかですかね。」
「あれって、その財布を盗んだ人が捕まったという話を聞いたことありますか?」
「いえ、俺が知ってる限り犯人が見つかったとか捕まったなんて聞いたことないですね。」
「実はあれも、詳しくは言えませんが、犯人を追跡できる仕組みになってるんです。」
「それなら、財布に入ってる免許証の人に連絡したらいいじゃないですか。」
「あの身分証やカードの名義は当研究所の研究員だったり、あるいは完全なダミーだったりで、本当の被害者はいないんです。」
「だとしても、それなりの損害はあるだろうし、研究所の活動資金は一体どこから?」
「そこは、我々の研究に賛同してくれる企業様とか、いろんな方々から寄付を頂いているんですよ。」
「そこまでして…。もしかして、財布以外にも何か?」
「…そうですね…、言える範囲なら…自販機荒らしとか、車上荒らしとか…ですかね。」
「そんな事で犯罪が抑制できるとでも?」
「今のは、あくまでも言える範囲の話でして…。」
「つまり、あなた方の研究所は、犯罪を犯しそうな人を探し出して、わざと犯罪をさせる。そしてそいつが死ぬまで誰にも言わないか、それができなければ犯罪者として通報する、という事ですか?」
「早い話、そういう事です。それで、あなたはどちらを選びますか?」
「…黙ってます…。」
「あなたは賢い人です。それでは、この書面にサインを。それと…」
「それと?」
「2万円を返してください。」
日本では、落とした財布が手元に帰って来る確率がかなり高い。
最後草
面白かった。