ハンバーグ
投稿者:キミ・ナンヤネン (88)
妻がこの家から突然いなくなって、およそ2か月が経った。
その日から家事や身の回りの事を自分でしないといけなくなった。
私は特に料理が苦手だったが、妻がいた時はいろいろと教えてもらっていたからそれなりの物ができるようになった。
しかし、一人だけとなった今では、料理をする気力も無く、レトルトや弁当で済ませるようになっていた。
ご飯さえ炊いておけば、おかずなんて何でもよかった。
それさえ面倒な時は、レンジで温めるだけのパックご飯を食べる事も多かった。
そんな日々が続いていたが、このままではいけないと思い立ち、ハンバーグを作る事にした。
ハンバーグは妻の得意料理で、彼女の独特の味付けがしてあり、材料や隠し味の分量、火加減を教えてもらっていた。
教えてもらっていたはずだったが、どうしても正確に思い出せなかった。
とりあえずレシピサイトなどを見て材料を買ってきて作り始めた。
レシピのほとんどが2人から3人分の分量で紹介していたから、その通りに2枚作り、2日に分けて食べることにした。
ここでちょっとした間違いをしてしまった。
予定では1枚だけ焼いて、残り1枚は焼かないで冷蔵庫に入れるつもりだったが、2枚とも焼いてしまったのだ。
まあ大した失敗とも言えないから、1枚を耐熱ガラスの皿に移し、ラップをかけて熱をさますようにした。
たきたてのご飯をお椀によそい、焼きたてのハンバーグと、買ってきたポテトサラダを皿に盛り付けた。
そして、ハンバーグをナイフで一口分切り離し口に運んだ。
一言で言って、不味い。
ハンバーグなんてレシピ通りに作ればそれなりにうまくできるハズだが、そうはならなかった。
作り方の何をどう間違ったのかわからないが、妻のハンバーグとは程遠かった。
材料が悪いわけではないし、「何かしらの肉料理」と割り切れば食べられないわけでもない。
明日もこれを食べるのかと思うと気が重かったが、ソースを変えてみようとか、一口大に切り分けてカレーに入れてみようとか考えていたが、今日はもうビールを飲んで寝る事にした。
珍しく、妻が夢に出てきた。
私と妻は、ダイニングテーブルをはさんで向かい合って夕食を取っていた。
メインディッシュはハンバーグだ。
妻が出来立てのハンバーグを一口分ナイフで切り離し、口に運んだ。
一口食べ終わると、妻は不機嫌な顔でこう言った。
「一言で言って、不味い。」
そこで私は目が覚めた。
時計は朝5時前を指していた。
この日は休日でゆっくり寝るつもりだったが、目が冴えてもう眠れなかった。
すみません。
てっきり「妻の」ハンバーグだと思ってドキドキして読んでました。
良い話でした。
怖いというより、良い話しでした