視える
投稿者:偽美 (28)
私は素直に従い、お金を払ってタクシーを呼び止めようとした時……ふと気付きました。
運転手さんの顔色が真っ青なことに。
「あ、あの……」
私が声をかけると、彼はハッとしてこちらを振り向きます。
そして、震えた声でこう言いました。
「あぁ……すみません。少し考え事をしていて」
「いえ、それはいいんですけど……。顔色が悪いですよ?」
「えっ!?……そ、そんなことはないよ。きっと疲れてるだけだと思う」
「そうですか……?」
「うん、そうだとも! だから気にしないでくれ!」
そう言って、無理矢理笑顔を作ってみせる運転手さん。
私は何も言えず、そのまま家まで送ってもらいました。……そして、家の前まで着いたところで、また違和感を覚えることになるのです。
何だか、外が騒がしいように感じられました。それも複数の人の気配がするのです。
不思議に思って外に出てみると、そこには沢山の人々が集まっていました。
彼らは口々に、私に向かって話しかけてきます。
「大丈夫かい!?」
「怪我は無い!?」
などと言っていますが……正直、何を言っているのかよく分かりませんでした。
私はただ、
「はい、大丈夫です」
と答えるだけで精一杯でした。……そして、集まった人々は皆一様に私を見つめ、何かを期待しているような顔をしています。
私が困惑していると、一人の男性が声をかけてきました。
「君の名前は、真白愛梨ちゃんであってるかな?」
私は戸惑いながらも、彼の質問に対して肯定します。すると、その男性はニッコリ笑って言いました。
「ありがとう。僕は、君のお父さんの友人なんだ」…………その一言を聞いた瞬間、私は全てを理解しました。
――ああ、そういうことだったんだな。
そう思った時にはもう、私の意識は完全に途切れてしまっていたのです。……次に私が目覚めた時は、病院のベッドの上でした。
両親も一緒に居たので、私は事の経緯を聞くことにしました。すると、驚くべき事実を聞かされることになったのです。
事故に遭ったのは、私の両親ではなく……両親だと思い込んでいた人たちだったということ。
※コメントは承認制のため反映まで時間がかかる場合があります。