幽霊の出る家
投稿者:偽美 (28)
今からお話するのは、私が小学三年生だったころの話です。当時住んでいた町には、ある奇妙な風習がありました。
それは「幽霊の出る家」の噂が広まると、その噂につられて集まってきた霊能力者を名乗る人間たちが、夜中に家を回り歩き、家の者に憑いている悪い霊を祓うというものでした。
もちろん、私も母と一緒に噂を聞いているわけなのですが……この辺りは記憶が曖昧です。
ただ一つはっきりしているのは、私はその時すでに、自分の家に「良くないもの」がいると感じていたということです。そして、そんな私の予感を証明するように、その夜、事件は起きました。
真夜中の三時頃だったと思います。突然、家のチャイムが鳴る音がしました。
こんな時間に誰だろうと思いながら玄関に向かうと、そこには女性が立っていました。
「こんばんは」
と挨拶され、
「どなたですか?」
と尋ねると、彼女は少し困ったような顔をして言いました。
「あの……ここで除霊をしている人なんですけど……」
そう言われても、当時の私はまだ小学生だったので、当然のことながら彼女の言っていることがよく分かりませんでした。しかし、その後すぐに理解させられます。
「ちょっと失礼しますね」
女性は断りを入れて靴を脱ぐと、そのままズカズカと家の中に入ってきてしまったのです。
これにはさすがに驚きました。いくらなんでも無遠慮すぎると思ったのでしょう。
慌てて止めようとしたのですが、彼女はまるで家の間取りを知っているかのように進み、とある部屋の扉の前で立ち止まりました。
そこは、当時使っていた寝室でした。母はいつものようにベッドの中で寝ていたのですが、その日だけはなぜか布団を被っておらず、上半身を起こした状態で目を閉じていました。
私は咄嵯に、彼女が母の体に触るのではないかと心配になりました。
しかし、予想に反して女性はただ立ったまま動こうとしません。どうやら、部屋の中に何かしらの変化があるか確かめているようでした。
それから五分ほど経った頃でしょうか。唐突に女性の表情が変わったのを覚えています。それまでどこか頼りなさげな雰囲気があったものが消え去り、真剣そのものといった感じに変わりました。
それを見た瞬間、私の背筋に悪寒のようなものが走りました。同時に直感的に理解することが出来ました。きっと彼女にとって、ここの部屋にいるものはよほど厄介なものなのだと……。
彼女はおもむろに両手を前に差し出すと、指先で印を結び始めました。
そして、何事かを呟くと同時に、パンッ! という乾いた音が鳴り響きました。
何が起きたのか分からず呆然としていた私に向かって、女性は言ったものです。
「もう大丈夫ですよ」
それは紛れもなく、母の体から悪霊を追い払ったという宣言でした。
その言葉を聞いた途端、私の中から恐怖心が一気に抜けていきました。
正直なところ、まだ完全に安心しきれたわけではないのですが、それでも先程までのような不安感はありません。おそらく、母に取り憑いていた霊を追い払ったことで、彼女にも自信がついたのだと思います。
彼女は満足そうな笑みを浮かべると、こちらへ振り返りました。
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