子供を連れ去る雪女

子供の頃、親戚宅に泊まりで遊びに行った時のこと。
親戚夫婦には私より少し年下の子供（以降、Aちゃん）が1人いるのですが、夜20時頃、突然Aちゃんの姿が見えなくなったのです。
食事をしてお風呂に入った後、部屋で両親とくつろいでいると親戚夫婦が「Aがいなくなった」と言いにきたので、皆でAちゃんを探すことになりました。

親戚夫婦の住む家は平屋建てで和室が5室以上あり、歩いて5分のところに牛小屋があって、そこには10頭以上の牛がいます。
季節は12月、その時期はとてもたくさんの雪が降るので、もしAちゃんが外に出てしまっているなら早く見つけなければなりません。
しかし、私と私母とAちゃん母は家の中を、私父とAちゃん父は外の牛小屋だったり近所を探したのですが、全くAちゃんがいる痕跡がないのです。
自分達だけでは探しきれないということで、警察に通報して、ご近所さんにも声をかけてAちゃんを探すことになりました。

時刻は0時頃、どれだけ探してもAちゃんが見つからず、大人は皆、絶望感でいっぱいの表情でした。
私も子供ながら、「とんでもないことになった」と、怯えていたのです。
何だか寒気がして、そうするとトイレに行きたくなったので、私は母についてきてもらってトイレへ行きました。

トイレは庭に面した廊下の奥にあり、その時は寒さを防ぐ為にと窓も襖も閉め切っていて、庭の様子は見えませんでした。
用を足してトイレから出て、私達家族にあてがわれた部屋に戻ろうとした時、庭の方から何か声が聞こえたのです。
耳を澄ますと、「○○ちゃん（私）、○○ちゃん」と、私の名前を呼んでいるようでした。
聞き覚えのある幼い声に、もしかしてAちゃんかと思い、襖を開けて窓の外を見ましたが、そこには雪があるだけで誰もいません。

母が不思議そうに「どうしたの、寒いから部屋に戻ろう」と言って先に歩いて行ってしまったので、追いかけようとすると、またAちゃんの声で「○○ちゃん、こっち、こっちにきて」と呼ぶ声が聞こえるのです。
Aちゃんの声は最初はとても小さかったのが段々大きくなり、最後には「○○ちゃん！早く来て！こっちに来て！早くおいで！」と、耳元で叫ぶように言っていました。
なので私は「お母さん！Aちゃんの声が庭から聞こえるよ、Aちゃんが庭にいるかもしれない！」と言ったのですが、母は怪訝な顔をします。
そして、庭を見て、「庭はもう散々探したって聞いたけど…、雪がたくさん積もってるからAちゃんがいても見えなかったのかな。皆に行ってもう一度庭を探してみようか」と言い、急ぎ足で部屋に戻っていきました。

私が部屋に辿り着くと、私母・父と親戚夫婦が揃っていて、ちょうど私母が「○○（私）が庭からAちゃんの声が聞こえたって。もう一度庭を探してみましょう」と言っているところでした。
私父が「○○、本当か？」と言うので、「多分Aちゃんの声だったよ。こっち、こっちって呼んでた」と答えると、親戚夫婦はサッと顔色を青くしました。

そして大人だけでコソコソと話し合った後、Aちゃん父と私父が「ちょっと出てくる」と言って、家を出てどこかに出かけてしまったのです。
母に聞いても何も答えてくれず、Aちゃん母も自室に戻ってしまい、モヤモヤしながらAちゃん父と私父が戻って来るのを待ちました。

待っている間に寝てしまったのか、気づいたら翌朝になっていました。
起きると家の中が騒がしく、どうしたんだろうと思っていたら私母がやってきて「Aちゃんが見つかったよ」と言うのです。
Aちゃんは親戚夫婦の家から歩いて15分程のところにある山の中程にある神社にいたようで、今は念の為病院に行っているとのことでした。
私父もいつの間にか戻ってたのか部屋に入ってきて、「Aちゃんも見つかったことだし家に帰ろうか」と言いました。
そしてあれよあれよと準備が済んで、何も言う暇もないまま、私達家族は自分達の家へと帰ったのです。

なぜ当時幼稚園くらいの年齢だったAちゃんが1人で夜の雪道を歩いて山中の神社にいたのか、どうしてAちゃんの声が聞こえたと言った瞬間に親戚夫婦が顔色を悪くしたのか、その理由を教えてもらったのは、私が20歳を過ぎてからです。
実は親戚の家がある地域では、昔から雪女が現れて、気に入った子供を山の中に連れて行ってしまうのだそうです。
Aちゃんは雪女に気に入られて山の中の神社に連れて行かれたのではないかと、両親から教えてもらいました。