子供を連れ去る雪女

また、雪女は連れ去った子供の声色を真似して、他の子供を連れて行ってしまうということもするのだとか。
あの時、庭の方から聞こえたのは、Aちゃん本人ではなく、雪女が真似したAちゃんの声だったのでしょう。
親戚夫婦は雪女の話しを知っていたからこそ、私がAちゃんに呼ばれたという話しを聞いて、「Aちゃんだけではなく私まで連れ去ろうとしている」と、気づいたのです。

Aちゃんとは、大人になるまで会えませんでした。
親戚夫婦の家に行けたのも、大人になってからです。
両親からは、「大人になるまでは親戚夫婦の土地に近づくのも良くないと思って止めていた」と、言われました。
どうやら雪女は、連れ去ろうとしてそれが出来なかった子供に執着して、何としてでも連れて行こうとするのだとか。

私が親戚夫婦の暮らす土地に行ってしまえば、今度こそ雪女に連れ去られてしまうと両親は思い、近づけないようにしていたのでしょう。
雪女はその土地から離れられない、子供だけを連れ去るということで、私は大人になるまで親戚夫婦の暮らす土地に近づけなかったのです。

Aちゃんが見つかるのが早かったのは、雪女が連れ去った子供は山中の神社に現れることが多いという話しが伝わっていたからでした。
Aちゃんは、自分が雪女に連れ去られたことは何も覚えていなかったようです。
ただ、寒くて寒くて仕方なかったことだけは微かに記憶にあるようでした。

私は大人になってから一度だけ、親戚夫婦の暮らす土地に行きましたが、雪女の話しを聞いて怖くなり、それ以降全く近寄っていません。
もしも、大人になっても雪女の執着が消えていなかったら…、どうなってしまうのか想像すると恐ろしいからです。