深夜の散歩で出会った女
投稿者:足が太い (69)
私は一時期、夜の散歩に嵌っていました。
夜の散歩を始めたきっかけは、仕事のことで色々悩んで眠れない日々が続いたからです。
布団に入っても、その日一日の出来事が脳内を駆け巡って眠気がやって来ず、「体を動かせば眠れるのでは」と思いました。
適度な運動は健康にも良いだろうと思ったので、余程雨が酷かったり風が強くなければ、殆ど毎日のように夜22時~22時30分までの30分間、外を歩いていました。
最初は、家の近所を適当に歩くだけでした。
明日も仕事があるし、知らない道に迷い込んだりでもして散歩で疲れたら、朝起きれないだろうと思ったからです。
でも、そのうち知っている道を歩くのに飽きてしまって、休みの前日の夜だけは知らない道を歩いてみることにしました。
知らない道と行っても、歩くのは家の近所ですから、完全に迷子になってしまうことはありません。
歩いたことの無い道を歩き、見知らぬ景色を見て、気分転換になっていました。
その日は確か、生ぬるい風が吹く5月の夜だったと思います。
「今日はこっちの路地を通り抜けてみよう」と思い、今まで一度も通ったことのなかった細い路地を通りました。
夜中ということもあって路地はとても暗く、また、住宅街を通っていますが一切の物音が聞こえません。
ちょっと不気味に感じながら歩いていると、ふと上から誰かに見られているような気がしたのです。
立ち止まって視線を上にやると、2階建てらしい家の窓が開いていて、そこにはニヤニヤと笑いながら私を見ている、髪の長い女の人がいました。
窓には明かりがついておらず、辺りは真っ暗なのに、なぜか女の人の顔がはっきりと分かります。
びっくりしたものの、見なかったフリをしてそっと視線を前に戻し、さっきより早歩きで路地を歩いていきました。
しばらく歩いて路地を抜け、さて次はどの道を歩こうと思ったら、今度は後ろから視線を感じました。
そーっと後ろを向くと、私の3m後ろに、さっき見かけた女の人が立っていたのです。
いつの間に外に出てきたのか、もしかして私を追いかけてきたのか、女の人は先程と同じようにニヤニヤと嫌な笑みを貼り付けています。
怖くなった私は、震える足で何とか走り、家に帰ろうとしました。
直感で、「あの女の人は関わっちゃいけない存在だ」と、気づいたからです。
家の近所を歩いていたので、ちょっと進んだらすぐ知っている道に出られて、そこから最短距離で家まで帰りました。
急いで家の鍵を開けて、玄関に滑り込んで鍵をかけて、「追いつかれなかった、よかった」とひと息ついたところで、ポケットに入れていたスマホが鳴ったのです。
恐る恐るポケットからスマホを取り出すと、非通知で電話がかかってきていました。
タイミングがタイミングですから電話に出るのが怖くて、スマホの電源を切ってしまおうと思ったのですが、操作を誤って電話に出てしまいました。
すぐに通話を切ろうとしましたが、なぜか何を押してもスマホが作動しないのです。
いつの間にかスピーカーになっていたのか、そのうち、相手側から何やら変な音が聞こえてきました。
音は、カリカリ、カリカリ、カリカリという、猫が柱で爪を研ぐ音に似ています。
不気味に感じて、スマホをその場に放置して、私は布団にもぐって頭から掛け布団をかぶりました。
玄関に放置したスマホからの怪音は、布団をかぶれば聞こえなくなりました。
糖質はカットしましょう