深夜の散歩で出会った女
投稿者:足が太い (69)
だから安心していたのですが、今度はすぐ近くからカリカリ、カリカリというあの爪を研ぐような音が聞こえてきたのです。
やめておけばいいのに、そうっと布団から頭だけ出して、すぐ右側にある窓を見ました。
すりガラス窓の外側に、カリカリという音に合わせて動く、手のようなものが動いているのが見えたのです。
「ひぃぃっ」
自分の喉の奥から、聞いたこともないような悲鳴が出ました。
慌てて手で口元を抑えましたが、外にいる何かには聞こえてしまったようです。
一瞬ピタリとカリカリ音が止まりましたが、さっきよりも大きく甲高い、ガリガリ、ガリガリという音を出して窓を引っかいてきました。
このまま家の中にいるのが怖くなった私は、そっと布団から抜け出して、玄関の外へ飛び出しました。
パニックになっていたので、鍵もかけず、スマホも財布も持たずに家の外に出てしまったのです。
「どこへ行こう、どこへ行けばあの手と音はついて来ないだろう」
そう思いながら、あてもなく走りました。
どれくらい走ったでしょうか。
もうこれ以上、足が動かなくなり、道端に座り込んでしまいました。
異様に喉が渇き、せめて財布だけでも持ってきたら良かった…と思っていると、後ろから声をかけてくる人が現れました。
「大丈夫ですか、気分でも悪いんですか」
優し気な声に安心してそちらを振り向くと、そこにはあの路地で見た女の人がいたのです。
女の人はニタニタと嫌な笑みを貼り付けて、「大丈夫ですか、気分でも悪いんですか」と、同じ言葉をもう一度繰り返してきます。
私は恐怖で何も答えられず、それでも必死に立ち上がってその場から逃げ出しました。
その後は、地獄でした。
走って逃げて、疲れて道端に座り込むと、あの女の人がいつの間にか後ろにいて、「大丈夫ですか、気分でも悪いんですか」と、聞いて来るのです。
どこへ行っても必ずあの女の人がいて、訳が分かりませんでした。
とうとう力尽きて、見知らぬ公園のベンチで座っていると、また「大丈夫ですか、気分でも悪いんですか」という声が聞こえてきたのです。
自暴自棄になった私は「大丈夫じゃないです、気分が悪いです」と、後ろも向かずぶっきらぼうに答えました。
すると、後ろから急に「あはは、大丈夫あははははですか、ああはははは気分あああははでも悪いんですかああああああああ」と、様子のおかしい声が聞こえたのです。
びっくりして振り返ると、女の人の顔には眼も鼻もなく、大きな牙がびっしりと生えた唇だけがありました。
それを見て、意識が遠のいていくのが分かりました。
あまりの光景に、私は気絶していたのでしょう。
気づいたらお昼で、昨日の公園のベンチにいました。
その日は仕事が休みなのでホッとしながら家に帰り、もう一度寝直しました。
あれ以来、女の人を最初に見た路地には一切近寄っていません。
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