気づいたら隙間ができるアパート

就職のために私は実家を出て、アパートの引っ越すことになりました。
仕事も一人暮らしも全部初めてで、内心ドキドキわくわくしていました。だからこのアパートを決めるのもすごく時間をかけて吟味したはずだったのです。
できるだけ住み心地がよく、環境がいい場所で暮らしたかった私はいくつもの不動産屋さんをハシゴして、やっとこの家に決めました。
まさかそんな吟味したアパートで失敗するだなんて思っていなかったです。

このアパートの異変に最初に気づいたのは、私ではなく私の弟でした。
私の弟は引っ越しのときにわざわざ駆けつけてくれて、引っ越し作業を手伝ってくれました。
本当にお姉ちゃん思いの弟で、私が一人暮らしを初めてすることも心配してくれたし、何から何まで手伝ってくれました。

そんな弟が「この家、隙間が多いのか寒いな」と言い始めたのです。
最初は変な感想だなと思いつつも聞き流しました。
隙間なんてそんなないのに何言っているのだろうと思っていました。

そんな弟は最初から何か感じるものがあったのか、しきりに「隙間が」と言っていました。
初日の私は鈍感だったのか何も気づかなくて、隙間の意味もよく分かりませんでした。
私がこの隙間に気づいたのは、住み始めて1か月ほど経った頃だったと思います。

ふと部屋の戸がぴっちりと閉まっていないことに気づいたのです。
ずぼらな私は基本的にあまり周りの状況を見ないし、気づかないタイプです。

でもその日は急に寒くなり始めて、暖房をつけるのに戸をぴったりと閉めたはずでした。
なのに気づいたら部屋の戸が少し開いていて、隙間から冷気が入ってきてしまっていたのです。
私は、「閉め忘れ？」と最初は気にも留めずに、戸を今度こそぴっちりと閉め直しました。

それから数時間経って、トイレに行こうと私は重い腰をあげて、「え？」と思ったのです。
数時間前に閉めたはずの戸がまた少しだけ開いていたのです。

それまでまったく部屋を出ずにスマホを触りながらゴロゴロしていた私はさすがにおかしいと思いました。
部屋にいるのは当然私一人だけなのです。
出入りしていないのに戸が勝手に開いてしまっているなんて、そんなことありえないと思いました。

気持ち悪いなと思わず言いましたね。気づいたら戸が勝手に開いて隙間ができているのはちょっと怖い感じがしませんか。
私はホラー映画の一場面を思い出して、ちょっとぞくぞくしてしまいました。

その日からちょっと「隙間」が気になりだしました。
もしかしたらそれまでも何度かこのようなことがあったのかもしれません。
そういえば戸が開いていることがあったような気がします。
でも気づかなければ気になりませんでした。
私はこの日から「隙間」のできる現象に少し敏感になったのです。