峠の電話ボックスの怪

数年前、私が1人でドライブをしていた時のことです。
遠出した帰りにある山の峠道にさしかかった私は、そこに緑色にぼんやり光る電話ボックスを見付けました。

いまどき珍しいと思いながら何となく目を追っていると、電話ボックスの中に赤いちゃんちゃんこを着たお婆さんが蹲っているのが目にとまりました。
「えっ」と思い咄嗟に車内の時計を確かめると時刻は夜11時……真っ先に考えたのが認知症の徘徊老人の可能性でした。

赤の他人なので素通りしようか迷いましたが、もし放置して何かあれば寝覚めが悪いと考え直し、ブレーキを踏んで外に降り立ちました。

「どうしました、大丈夫ですか？」

声を張り上げながら電話ボックスに近付き、スライドドアに手をかけた瞬間……おばあさんが顔から両手をどけました。
その素顔を目の当たりにし絶叫が迸りました。

老婆の顔は真っ赤な猿だったのです。

以降の記憶はおぼろげで、即座に車に飛び乗って下山した事しか覚えていません。

数日後、どうしても例の奇妙な体験がひっかかって現場に戻ってみましたが、謎の老婆どころか電話ボックス自体見当たりませんでした。

私が会った老婆は一体何者だったのでしょうか？
山に棲む魔物に化かされたのでしょうか。