この事件がきっかけで友人たちと疎遠になり、居心地悪さを味わっていた矢先に仙台への転居が決まりました。
幸い……といえばいいのか、友人たちは俺の名前を出したりしませんでした。
そして月日は流れ、俺は大学を卒業し大手企業に就職しました。二十歳をこえる頃には村での体験など殆ど思い出さなくなり、職場で知り合ったA子と相思相愛の日々を送っていました。
ところが……大学の同窓会で再会したB子とも飲んでるうちに意気投合し、その場の勢いで関係を持ってしまいました。
A子もB子も両方好きだ、どちらも手放したくない……優柔不断に揺れ動いてるうちに歳月が過ぎ去り、二人に浮気がばれてしまいました。
もちろんA子もB子も怒り狂い、俺を激しく責め立てました。それでもやっぱりどちらか一人に決められず、ある条件を出しました。
「三人で登山にいかないか。綺麗な空気を吸って綺麗な景色を見て、心をリセットしたあととことん話し合おうじゃないか」
我ながらどうしてこんな突拍子もない提案をしたのか理解に苦しみます。
もともとアウトドアスポーツが好きで、A子B子それぞれと山に登った経験はあったものの、恋敵の二人を誘うなんて無神経すぎました。
即断られて当然のはずなのに、何故か二人とも俺の提案を承諾し、山登りに付いてきたのです。
三人で相談した結果、行き先は東北の山に決まりました。当日、俺とA子とB子は表面上は和気藹々と山に登りました。
最初のうちは順調でした。しかし突然天気が崩れ、山小屋を目指して走っている時に足場がなだれおちます。
「あっ!」
まずいと思った時には既に遅く、俺とA子とB子は崖から転落していました。下に枯れ葉が積もっていたのでなんとか命拾いしましたが、今から山道に戻るのは困難です。スマホの電波が繋がらず、自分たちが今どこにいるかもしれません。
遭難した……絶望的な現実にうちのめされました。
それから数日間、俺たちはリュックの中に入っていた弁当や飲み物を分け合い、辛うじて生き延びました。
リュックの食料が尽きると木の皮を剥いで根を掘り返し、あるいは虫やネズミを食べました。全員泥まみれで酷い有様です。体には緑色の苔が張り付き、生きた濡れ仏となりはてました。
ああ、もうおわりだ……諦めて目を瞑りかけ、向こうに一輪の彼岸花が咲いているのを発見しました。続けてぐったりしたA子、B子を見比べます。二人とも俺の視線を追い、「私にちょうだい」「いいえ私に」とか細い声で訴えています。
A子B子がひび割れた唇で紡ぐ懇願に迷った末、俺は彼岸花を引っこ抜き、生で貪り食いました。仕方ありません、腹が減っていたのです。
A子とB子が絶叫し、こちらにとびかかってきます。
こうして俺は幼い日の報いを受ける事になりました。
濡れ仏に彼岸花を手向けた日から、愛する女たちに貪り食われる運命は決まっていたのでしょうか……。
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