こだまは繰り返す
投稿者:誠二 (20)
これは俺が20代の頃の体験です。
当時一人旅をしていた俺は、自身の計画性のなさが祟って四国の山中で迷子になりました。
最初は意気揚々と山歩きをしていたものの、二時間ほど経過すると急に霧が立ち込めて視界が悪くなり、帰り道を見失ってしまったのです。
さすがに慌てた俺は、誰かこたえくれないかと淡い期待をこめ「おーい」と叫びました。
すると即座に「おーい」と返ってきたのですが、ただのこだまにしてはどうも変です。
森には俺一人しかいないので自身の声が反響してるのは間違いなのですが、それにしては女か男か、大人か子どもかもまるでわからない不可思議な響きでした。
一気に血の気が引いて走り出すと、「おーい」「おーい」と密な梢に跳ね返りこだまが追ってきました。
「おーい」「おーい」と間延びして繰り返されるこだまは次第に低くなり、「おい」と耳元で囁くようになりました。
森を走り抜けると古びた祠に行き当たりました。
祠の前に積まれた夥しい干物を目の当たりにして、俺は気を失いかけました。
祠の前に山のように積み上げられていたのは人間の耳でした。古いものは茶色く干乾び、新しいものはまだ鮮血を滴らせています。
その耳は百舌の早贄のように小枝で串刺しにされ、何枚も重なっていました。
「おねがいします、たすけてください!」
「お い し い」
得体の知れない何かが俺の言葉を継ぎはぎして返した瞬間、決断しました。
地面に落ちていた小枝を引っ掴み、それを耳に突っ込むとバツンと音がし、何も聞こえなくなりました。
数時間後、俺は麓の民家で目を覚ましました。山菜採りにきた老人に救助されたのだそうです。
鼓膜は両方とも破れており、この一件以来耳が不自由です。
ゾッとした…