山奥にある古い旅館に「幽霊が出る」という噂を聞き、
オカルトとバイクをこよなく愛するボクは、そこへ宿泊の予約を入れた。
山道を駆け登ると、霧の中に旅館の灯りがぼんやりと浮かんでいた。
どこをどう走ったのか・・・いつの間にか旅館の前に到着していた。
木造三階建て、いかにも古めかしい。
いくつかの建物をつないだような、少しいびつな形をしている。
看板の文字はすでにかすれてしまっていた。
玄関に入ると、帳場の女性が静かに頭を下げた。
「・・・よく、お戻りになられました」
初めて来たはずなのに「戻られました」とは、
この地方独特の言い回しなのだろうか?
部屋は古い和室だった。
窓のそばには小さなテーブルと向かい合わせに古びた椅子が寄せてある。
小さな冷蔵庫には瓶のビールが入っていた。
開けるとお金を取られる奴だ。
窓の外には山々の稜線が見える。
丸っこく、緑で覆われた背の低い山々が連なる、どこにでもある山並みだ。
「うっ!?」
こんな自然の山の中にある旅館だというのに、時折消毒薬のような匂いがする。
どこかの部屋で消毒薬を使った清掃でもしているのだろうか。
「・・・もしかしたら・・・」
もしかしたらどこかの部屋で死人が出て、それで部屋の消毒を・・・なんて。
まさかね。いかんいかん。オカルト好きの癖が出たようだ。
さっそく浴衣に着替えて、館内を散策しながら温泉に向かった。
年季の入った檜の内風呂に、岩を組んで作られた露天風呂もあり、
ひなびた感じのいい温泉だった。
バイクで長距離を走った疲れと汚れが一気に落とされていく。
夕食は部屋食だった。
家庭料理のような献立で、山の旅館をアピールするような特別豪華なものはなく、
こんにゃくの刺身やらエビフライやら・・・まぁ、風情はないが、自分の好物ではあるのでそれなりに満足した。
























Mameです。
こちらの作品は、2024年に書いたショート怪談の「幽霊旅館」を
長編に作り替えてみた作品です。
やっぱり長いと旅情とかワンクッション入れられて、読んでる人の精神をゆるめたり緊張させたりする余裕ができていいですよね。