そうして静かに時が過ぎて行く。
・・・はて、この旅館のどこに幽霊が出るというのだろうか。
・・・そうだ、消毒薬の匂いがどこからするのか、探してみようか。
そう思い、今度は複雑怪奇な館内を隅から隅まで探索してみるのだが・・・怪しげな消毒臭い場所を見つけることはできなかった。
結局ボクはまた温泉に入りなおして、星空の見える露天風呂を楽しんだ後、
部屋でビールを飲んでそのまま普通に就寝した。
どのくらいの時間がたったのだろう・・・
広い部屋の真ん中で、重たい布団に潜り込んでいたボクの周りに、またあの消毒薬の匂いが漂っていた。
「・・・これは・・・ボクの部屋からしてたんだ!!」そう気が付いた。
どこを探しても無駄だったわけだ。発生源はこの部屋だったのだ。
それと同時に、部屋の中に自分以外の誰かがいるような気配を感じる。
どうやら、やっと探していたこの旅館の怪異に出くわしたようだ。
・・・だが、慌てちゃいけない。ここで目を開けて突然立ち上がって大騒ぎしてしまっては、せっかくの怪異が水の泡だ。
すこーし薄目を開けて、周囲の状況を確認してみる。
薄暗闇の中で、確かに何かがうごめいているようだ。
これはもしかすると、うわさに聞く「座敷童」なのではないか?と思った。
願ってもない。座敷童に出会うと幸運に恵まれるというではないか。
もう少し様子を見てみようと思っていたその時、突然足が引っ張られた。
すごいチカラで、ずずっと体が布団の中に引き込まれた。
一瞬のことで、驚いて目を開けて足元を見てしまった。
そこには、なにか得体のしれない暗闇があり、その中に足が吸い込まれていく。
座敷童なんて可愛いものではない。
まるでその暗闇が自分を食おうとしているのではないかと感じた。
とっさに足を引き抵抗を試みるが、あまりに強い力で引っ張られ、
ねじられ、関節が逆方向に曲がる。
耐えられない、激しい痛みが走る。
「うぎゃぁぁぁ!!」あまりの痛みに叫び声をあげた。
だが、力は一向に弱まる気配がない。
ボキバキと骨が鳴っている。・・・砕かれている!!
「こ、殺される!!」恐怖が闇を支配する。
ボクはなすすべもなく、意識が遠くなっていった。



























Mameです。
こちらの作品は、2024年に書いたショート怪談の「幽霊旅館」を
長編に作り替えてみた作品です。
やっぱり長いと旅情とかワンクッション入れられて、読んでる人の精神をゆるめたり緊張させたりする余裕ができていいですよね。