わたしの生業は輸出入通関の営業職である。
通関とは読んで字のごとく、輸出入貨物を税関に通すという意味だ。
人間であれ手荷物品であれ国境を越える場合、それらは国内法に準じたチェックをされる。手荷物品程度の少量貨物なら簡易通関制度でスムーズに手続きはすむけれども、コンテナ船を使う大ロット貨物の場合は正式な申告書類を作成し、税関と呼ばれる行政機関の許可を得なければならない。
通関業法や外為法などの知識がないと、こうした手続きはまるで理解不能なようにわざと作られている。法律とはおしなべてそうしたものだ。法律条文を読点や二重否定を濫用した難解な文体にすることにより、専門知識を持った士業の連中を潤わせるしくみになっている。
士業の花形である弁護士や税理士も、依頼人に法律サービスを提供することで報酬を得ているわけだ。一般人で六法全書に通暁している人間はまずいない。
もちろんわれわれ通関士もその眷属である。通関士は荷主の代わりに輸出入貨物の申告書類を作成し、税関から許可を得るのが仕事だ。1件あたり数千円という薄利多売の商売であり、そのため通関事務所では連日連夜、依頼がひっきりなしに舞い込んでは消化されていく。
わたしの生業は大意、上記のようなものであると理解していただきたい。
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輸出入通関業に転職して5年ほど経ったころなので、もう10年ほど前の冬になるだろうか。
当時のわたしは仕事のスキルをあらかた身に着け、どんな案件も進んでこなす新進気鋭の営業マンだった。新規の見積もり依頼が入れば嬉々として飛びつき、ロクに与信も確認しないまま契約する。
いまにして思えば若気のいたりではあったが、あのころのひたむきな姿勢を懐かしく思い出す。
そんなさなか、会社の総務あてに新規案件のメールが届いた。ちょうど手持ちの仕事が空いており暇を持て余していたわたしは、一も二もなくこれに飛びついた(輸出入は典型的なシクリカル産業なので、繁忙期と閑散期の落差が激しい。23時まで残業しても捌ききれないほど依頼がたまることもあれば、終業時間の訪れを待ち焦がれるような日もある)。
メールは英語で書かれていたので、相手は外国人のようだ。外国人といっても白人ではなくアジア系であろう。文法が明らかにおかしいのだ。主語+動詞の基本形が崩れており、彼ら独自のルールで綴られていることが多い。いわゆるピジン英語である。とはいえ単語の羅列から、全体の意味はだいたい類推できる。
その依頼メールは非常に簡潔で、「新しく輸出をしたい、見積もりはいくらになるか」とだけ(文法規則をまるで無視した形で)書いてあった。これでは見積もりの出しようがないため、詳しい条件を送るよう返信する。送信ボタンを押した数分後、即座に電話がかかってきた。
先方はアジア系外国人特有の、要領を得ない片言の日本語でなにやらしきりにまくし立てている。何度も聞き返した挙句、ようやくなにを言っているのかわかった。
「いつコンテナくるか?」と尋ねているのだった。
根気よく詳細条件を打ち合わせたいと伝えるも、日本語のヒアリングは話す以上に絶望的らしい。不慣れな英語に切り替えてみたが、先方は英語もそれほど得意ではなかったようで、日本語以上の片言になる始末だった。
結局一字一句明瞭に発音することでこちらの意思はどうにか伝わり、先方のリクエストもかろうじて理解できた。依頼内容は次の通りである。
業務形態 EXPORT
商材 USED CLOTHES, ETC
積み出し地 NAGOYA, JAPAN
向け地 KARACHI, PAKISTAN
ボリューム 40F HIC×1
バンニング場所 岐阜県某所
商材について若干の補足をしておく。日本人は電化製品や衣服をやたらとすぐに買い替えるけれども、その際に廃棄されるタンスなりベッドなりテレビなりジャケットなりは、まだまだ現役で使えるケースがほとんどだ。
そうした中古品は(不法投棄でない限りは)自治体によって回収・処分されるのだが、実はかなりの商品価値を保っている。日本でも古着屋やリサイクルショップといった商売が成り立っていることからも、それは自明である。
先進国ですら中古品が流通しているのだから、生活必需品も満足に手に入らない発展途上国での需要は青天井である。

























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