子どもが突然、「この前のテレビ、怖かった」と言い出した。
五歳になる息子が、夕食後の皿洗いをしている私の背中に向かってぽつりと。
「え、何の話?」
「昨日の、夜のやつ。すごい怖かった。あのおじさん……顔、黒かったよ」
その日はテレビをつけていなかった。
録画もしていないし、私も夫も、夜はスマホを見ていただけだった。
適当に流したYouTubeか何かだろうと思い、「なに見たんだろうね」とだけ答えた。
だが翌日、録画リストに“見覚えのない番組”が残っていた。
番組名は、英数字の羅列。
放送局も、再生時間も記録が抜けている。
削除もできない。
気味が悪かったが、試しに再生してみた。
そこに映っていたのは、知らない家のリビングだった。
画質は荒く、モノクロに近い色味。
古い型のテレビが、壁掛けで設置されている。
その前に、小さな子どもが座っていた。
私と息子がいつもいる位置と、同じ配置。
けれど家具の色も間取りも微妙に違う。
カーテンの柄がうちのものによく似ている。
妙に胸がざわついた。
息子に尋ねると、
「あ、これこれ。昨日のやつだよ」と言って、画面の中を指差した。
そして言った。
「……ほら、このとき、ママが急にテレビのなか行っちゃったでしょ」
冗談にしては変な言い回しだった。
その場では笑ってごまかしたが、数日後──別の番組を録画しようとしたとき、また奇妙な映像が保存されていた。
今回は、もっと明るい映像だった。
やはり知らない部屋。
ただ、前回よりも生活感が増していた。
キッチンにまな板。玄関には靴。
よく見ると、床に落ちていたおもちゃが、息子が数日前に無くしたものと同じだった。






















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