あまり人には話していない。
……というか、うまく説明できない。
内容も、全部が正しいかも、自信がない。
──高校生の頃、塾の帰りに同じ電車に乗る先輩がいた。
河村さん。沿線が同じで、何度も一緒になった。
三月の終わり頃、LINEが来た。
「最近、駅で変な人をよく見るんだよね」
帽子とマスク、地味な服。
なのに、なぜか視界から外せない。
歩き方が……遅い? いや、まわりと合ってないのに、浮いてない。不思議だ。
──今思えば、この時点で何か言われていた気もする。けど、思い出せない。
「顔、見たんですか?」と返したけれど、返事はなかった。
既読は……どうだったかな。付いた気も、付かなかった気もする。
四月の終わり、夜。
電話が鳴った。
受話器からの声は、間延びして、濁って……でも、河村さんだった。
少なくとも、その時はそう思った。
「今日ね……話しかけちゃったかもしれない。あの人に」
駅のベンチで隣に座った人に「大丈夫ですか」と声をかけたらしい。
顔がゆっくりとこちらを向く。
返事は……言葉じゃなかった、と。
音だけが、耳の奥に入ってきた──という表現をしていた。
そのとき、電話口の奥でも同じような音が、一瞬した気がする。
それから彼女は変わった、と本人は言った。
鏡の中の顔が、自分じゃなくなる。
声も字も、別人のものになる。
「最近、自分がどこで喋ってるのか分からない」
──そう言った直後、通話は途切れた。
そこからのことは、人づてに聞いた。
引っ越していたとか、部屋のカーテンがなくなっていたとか。
机のノートの最後のページに、崩れた字で「ずっと見ていた」と書かれていたとか。
……正直、確かめていない。確かめるべきかも、わからない。
























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