だって笑っていたし

スナックで飲んでいて、ママさん・Ａから聞いた話。
Ａは数年前まで北陸地方の温泉街の、ある観光ホテルで
住み込みの仲居さんのような仕事をしていた。
そのときの体験談だとＡは言った。

ある日の夜、仕事を終えたＡは従業員用の部屋で寝ていたのだが、
何やら騒がしいので目が覚めてしまった。
なにかトラブルがあったのかと気になって起きだし、
右往左往している従業員の１人に問いただした。
「お客さんがホテルの部屋の窓から飛び降りたらしい」
とのことだった。

ビックリしてホテルの外に出ると、既に警察や救急が到着していて、
ホテルの外の一角で事故処理的な作業をしていた。

前日の夕方に予約なしでやってきた５０歳代くらいの夫婦がおり、
部屋も空いていたのでホテルは受け入れた。
最上階ではないが眺めの良い高層にある部屋に案内した。
その夫婦の奥様のほうが深夜に部屋の窓から飛び降りた。
そういうことらしかった。ほぼ即死だったようだ。

後日、その時の夫婦の旦那さんのほうが、
騒がせたお詫びと、その件に関しての迷惑料込みの
宿泊代などを支払いにホテルに来た。

それに対応した人から後に聞いたところ、旦那さん曰く、
旦那さんの母が長らく寝たきり状態になっていたが、
とうとう亡くなった。
寝たきりのあいだ、奥様がずっと義母の介護をしてくれていたのだが、
奥様は、義母の死に過剰にショックをうけていたようで、
自分の介護にいたらない面があったのかもしれない、
自分が義母を殺したようなものかもしれない、
そんなふうに自虐的に自分を責め、ほとんどノイローゼだった。
なので、葬儀も終わり四十九日も過ぎたので奥様の慰労もかねて
この温泉に旅行に来た。
だが奥様は自虐の念が晴れず発作的に身を投げてしまったようです・・
と、旦那様は嘆いていたそうだ。