バイトが深夜に終わって、自転車でアパートまで帰る途中にあるT海浜公園で一服していると、静けさの中で波の音だけが聞こえていた。
長い夏が終わり涼しさを感じる季節だが、さすがにこんな深夜には公園にも海岸にも誰もいない。俺一人きりだ。
水面には満月の光がキラキラと輝いている。
煙草を吸い終わると、俺は何かに導かれるように砂浜へと歩いて行った。
風が心地よく、今日はずいぶんと過ごしやすい。
砂浜にはさざ波が繰り返し往復している。
他の所はよく知らないが、この砂浜の砂は人が歩くと足跡が残ってしばらくの間消えない。
だから誰かが砂浜に来ていたかどうかすぐに分かるのだが、この時間には俺がここまで来た足跡しか無かった。
俺は海水で濡れてない場所を選んで腰を落とし、ぼんやりと海面を見つめていた。
その時、ふとバイトで仲の良かったYの事を思い出していた。
Yとは同い年で妙に気が合い、後輩の女の子がかわいいとか、あの映画は面白かったとか、色々な趣味も共通していて、バイト終わりの深夜にこの海浜公園や砂浜でくだらない話をするのがお約束だった。
Yは母子家庭だが母親とは折り合いが悪く、半ば家出同然で一人暮らしを始めた。
Yが言うには、母親は精神的に不安定でかなりヒステリックにYにつらく当たってくるという。
Yが高校を卒業して働きに出るために原付を買った時は特に酷かったらしい。
私を置き去りにしてバイクで私から逃げるのか、どうせお前は一人では生活などできない、等と散々だったらしい。
悪いことに、一人暮らしを始めて半年ぐらい経ったころ、Yはその原付で事故を起こして足を悪くしてしまった。
日常生活には大きな支障はないが、治りが悪かったらしく、歩く時のリズムが少し変わってしまった。
しかしバイトは座ってできる仕事だから長続きできたそうだ。
とはいえ、その歩くリズムを聞くだけでYが歩いていると分かるほどだ。
俺はYについて物思いにふけっていると、なにやら聞いた事のある足音が後ろから聞こえてきた。
Yだ。
「おう、久しぶりだな、またここで涼んでいるのかよ。」
振り向かなくてもその声がYだとわかった。
「ああ。ちょっと色々と考え事をしてたんだ。」
背中越しに話を続けた。
「お前こそ実家に帰るって言ったきり何も連絡も無しで。でも店長からいろいろと聞いたよ。」
「ああ、家の様子を見るために久しぶりに母と会ってさ…?あれ?会って何したんだっけ?」
「思い出せないか。」
「…ちょっとわからないな…。」
俺は店長から聞いた話をしようとして























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