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妖怪・風習・伝奇

どこかで見た話さんによる妖怪・風習・伝奇にまつわる怖い話の投稿です

黄泉がえり
短編 2025/06/02 21:33 2,778view
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最初に異変が起きたのは、隣町の古い墓地だった。
誰かが、“生き返った”と、そう言った。

最初は、ただの噂話だった。
だが、それを笑い飛ばす空気は一晩で消えた。

──死者が戻ってきていた。

戻ってきた者たちは、確かに「それらしく」見えた。
家族を名乗り、戸惑いもなく、生活に戻ろうとした。
言葉も、仕草も、記憶も、寸分違わなかった。

でも、人間は気づく。
“本当にそこにいるはずの何か”が、欠けていることに。

ある少女は、事故死した兄に再会して泣き崩れた。
だが翌朝、彼女の目はくぼみ、口は裂け、声を失っていた。
彼女はその後、一言も喋っていない。
目を見開いたまま、鏡の中の何かを指さし続けているという。

彼らは、“人間だったもの”を完璧に模倣していた。
だが、目だけが違った。

“こちら”を見ていない。
常に、背後や空間の角を、じっと見ている。

まるで、自分の中にいる“誰か”の声を聞いているように。
あるいは、“自分自身”を思い出そうとしているように。

町では、時間の進み方がおかしくなった。
昼なのに、夕方の光。
時計が止まる。
携帯が鳴り続け、開くと通話履歴に死者の名。

夜になると、“音”が消える。
虫も、風も、心臓の鼓動すら聞こえない静寂。
その中でだけ──遠くから足音が聞こえてくる。

引きずるような、腐ったものが地面を撫でる音。

母が戻ってきたのは、その三日後だった。

三年前、火葬まで終えた。
遺影に花を添え、骨を抱いて泣いた。

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