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妖怪・風習・伝奇

どこかで見た話さんによる妖怪・風習・伝奇にまつわる怖い話の投稿です

黄泉がえり
短編 2025/06/02 21:33 2,777view
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なのに、玄関を開けると、そこにいた。
「……ただいま」
笑っていた。
それは、記憶通りの笑顔だった。

だが、まばたきをしなかった。
まったく、瞬きをしなかった。

俺は黙って家に入れた。
そうするしかなかった。
笑って、話して、いつも通りを演じた。

でもその晩──

寝室の戸を閉めたとき、母が戸の向こうからこちらをずっと見ていた。
静かに、息をしていない顔で。

朝になると、家の鏡という鏡に**“俺ではない顔”が映っていた。
一瞬だけ。
俺の顔と入れ替わるように。
それを見た瞬間、喉の奥で何かが「かちり」と鳴った。**

町の外へ逃げようとした者は、みな“誰か”とすれ違って消えた。
バスの乗客が全員、無表情で一点を見つめていた。
トンネルを抜けた者が、反対側から同じ顔で戻ってきた。

逃げ道はない。

この町そのものが、もう“生きている”のではない。

俺は山に向かった。
森の中で、夜の音が止んだ瞬間、振り返った。
そこにいたのは、母ではなかった。

白濁した瞳。
唇が裂け、耳まで裂けていた。
その裂け目から、誰かの指先が這い出していた。

「……ここが、おまえの帰る場所だろう?」

俺は走った。
無我夢中で、声も出せず、森を突き進んだ。

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