私の仕事仲間が15年ほど前に体験した話です。
仕事仲間のAは昔から写真が趣味だったそうです。写真の被写体は、野生動物や星空などの自然を撮影していました。Aは大人になると写真の他にビデオカメラで、星空のタイムラプスや水辺に癒しを求める野生動物を定点カメラで撮影しながらカメラでも撮るということを仕事が休みの日に行っていました。
ある日、Aから電話があり「最近は撮影より収音にもハマっちゃって!結構高いマイク買いました」と趣味の幅が広がったと教えてくれたことがありました。私は「新婚なんだからあんまり趣味にお金かけたら奥さんに怒られるよ」とAに忠告しましたが、Aは「妻には納得してもらってますから!」と笑ってました。
数か月がたったころ、Aから連絡が来ました。
「なあ、この音源聞いてくれないか?」
私はAに「仕事終わりにいつもの喫茶店で会おう」と伝えました。
喫茶店に行くと、すでにAはボックス席に座っていてどことなく落ち着かない様子でした。Aはすぐに「これを今すぐ聞いてくれ!」とウォークマンを渡された。
私は、「何をそんなに慌ててんだよ!」とAに話しながらイヤホンを耳に入れて音源を聞きました。最初の方はトタンに雨音が当たり、暖炉で木が弾けるような音が聞こえて心地よいナチュラルミュージックでした。しかし突然、「ギャー!」と女性のような叫び声が聞こえ、私はぎょっとした顔をするとAが「やっぱり聞こえたか」と話しかけてきました。私はAに「何だよこれ!いたずらか?」と聞くとAは「この日はいつも通り一人で森に入って小川の音と野生動物の音を撮っていたんだ」と収録した時の状況を話し始めました。
「突然、雨が降って来て急いで車に戻る途中に小屋を見つけたんだ。俺は雨宿りできるかもと思って小屋に入ると見た目とは違って中は綺麗だったんだ。後日、来た時にお礼の品を持ってくるか小屋の持ち主を探してお礼をすればいいかと思って勝手に小屋を使わせてもらったんだ」
私は静かにAの話を聞いていました。
「ちょうどよく、暖炉の周りに薪もあったから火をつけてみるとパチパチっていい音が鳴るんだよ!そして、その日に限ってアナログで収音(録音)すると特有の温かみや音の深みが出るっていうからウォークマンを準備していたんだ」
私は先ほど聞いた音源がどういう風に収音された物かわかっただけで、あの叫び声が誰の者かすぐに聞きたい状況でしたが、Aが「もう一度、ウォークマンとパソコンの音を聴き比べてくれないか?」と話してきました。ウォークマンは音源のみでパソコンの方はビデオカメラの映像と音源が入っていて、私は右耳にウォークマンのイヤホン左耳にパソコンのイヤホンを突っ込み音の聞き比べを始めました。
例の叫び声のところまでは一緒でしたが、パソコンの方には叫び声が入っていませんでした。なので私はAに「ウォークマンにたまたま叫び声に聞こえるノイズが入ったのかね?」と伝えるとAは「続きがあるんだ」と続きを流します。
叫び声が聞こえて少し経った頃、雨音と暖炉の薪が燃える音に混じって「たすけて…」と消え入りそうな声が聞こえました。私は言い知れない恐怖を感じましたが、Aに「これってホラーの作り物だろ?」と冗談交じりに話すとAは「パソコンの方から聞こえたか?」私は首を横に振りました。
Aは「心霊に詳しいお前ならなにかわからないか?」と私に問いかけてきます。
私はAに「一つだけ思い当たることがある。EVPっていう現象だと思う」と話すとAは「やっぱりそうか…」とつぶやきました。EVPとは電子音声現象の略で、主に海外のゴーストハンターが心霊スポットで幽霊と対話する方法として使われることが多い手法です。
私はAに「やっぱりってEVPって知ってて俺を試したのか?」と詰め寄るとAは「この声の持ち主は俺に助けを求めている気がするんだ。だから、明日もう一度あの小屋に行って録音してくるよ」というのです。私は「いやいや。お前はナチュラルミュージックを録音するのが趣味だろ!心霊関係は俺にまかせてお前は二度とその小屋に行くな!」と強く言ったのですが、Aは「いや。お前じゃ彼女は出てきてくれんよ。俺じゃなきゃ…」といい話になりません。私は「じゃー俺も一緒に小屋に行く!一人で行ってなんかあったらどうするんだよ!?」というとAは「わかった。仕事が終わってから一緒に行こう」と約束をして、その日は別れました。
次の日仕事が終わるころ、一件のLINEが「悪い。やっぱり一人で行く」Aからでした。
私は何度もAに電話やLINEも送りましたが、返事が来ることはありません。
そして私が犯した致命的なミスは、正確な場所をちゃんと聞いていなかったことです。
Aを探そうにも探せません。Aの奥さんに聞いてもAの趣味自体まったく知りませんでした。
私は嫌な予感がしていました。喫茶店でのAの雰囲気や言動はいつものAとは違ったからです。奥さんは「明日の夜には帰ってきますよ」と笑っていた。
その日の深夜にAから動画が送られてきた。内容は…
「やっぱり一人で来るんじゃなかった。あの時、俺はどうにかしていたのかもしれない!もし俺が帰ってこなかったら○○(奥さん)に謝っといてくれ」というものだった。
しかし、所々に女性の声が入っていて「やっぱり来た」「もう離さない」と聞こえた。
次の日になっても帰ってこないAの捜索願を警察に提出したが、大人で事件性が見つからないということで自発的失踪として捜索はおろか携帯電話の位置情報すら調べてくれなかった。携帯電話の位置情報はプライバシー保護や法的な制約も関係してくる
かららしい。
15年たった今もA本人や痕跡・遺留品も見つかっていない。
どこかの森の中にある小屋に閉じ込められているのでしょうか?
























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