仕事人のＡさん

Yは仕事仲間のＡさんと釣りをしていた。

鮒や鯉が釣れるポイントだと、釣り人には定評のある池。
だが釣り始めて一時間くらいにはなるが、小さなアタリがたまにあるだけで、
まだ釣果は無かった。
子供のころからの釣り好きだが、最近まで仕事が多忙で
釣りは随分とご無沙汰していた。
久しぶり過ぎて釣り感が戻っていない。
大事なのは明日の船釣りだしな、などとぼんやりと想いながら、
Ｙは水面に浮かんでいるウキを見つめていた。

Ｙは冷凍食品を主に扱う会社で事務職をしている。
受発注が中心の仕事で、注文にあわせて配送の手筈を組む。
Ｙの会社では配送の実務はすべて外注で動かしている。

Ａさんは社員ではなく、委託で請け負う個人事業主だ。

二人は仕事を依頼する側される側として知り合ったが、
共に釣りだけが趣味であると判り、意気投合した。
年齢的にはAさんが50歳代半ばでＹよりも一回り年上だが、
ＡさんはＹに対し、年長者ぶることもなく接してくる。
Ｙにしてみればむしろ緊張してしまう。
ＹからしたらＡさんは大恩人なので。
誇張でなく、ＹはＡさんの協力を得られなかったら、
自分は終わっていただろうと感謝している。

Ａさんは迅速丁寧で確実で緊急時の対応力も高く、
仕事人として一流だった。
聞いた話では、若いころから一生懸命に働き、
稼いだ金は仕事道具の購入にあてた。
それらを使ってさらに仕事の質を上げ、量も増やし、

腕も信用も上げてさらに稼ぎ、と頑張った。
仕事で必要なものはなんでも揃える主義だそうだが、
それで確実に結果を出して仕事をやり遂げた。
そのためには酒も女も賭け事もやらないと決めて、
唯一、釣りだけを趣味と実益をかねて続けているらしい。
そのために車とか冷凍庫とか、小さいが船も所持し、
船舶の操縦免許までも取得していると
聞かされた時にはＹも驚いた。
Ａさんは、Yに、
「仕事はえり好みしない」
「仕事には手間も金もかける、惜しまない」
「技術も道具も身に着けて使わなければ損だ」
などと語った。
ＹはＡさんを尊敬し信頼し頼るようになった。