親切な人
投稿者:左右 (12)
竹内さんという女性から聞いた話。
竹内さんを含めた男女六人のグループが若気の至りで廃墟へ肝試しに行った時の事だという。
目的地は取り壊し間近の民家。住宅街から離れた寂しい一画で、自販機の灯りさえ見当たらない。鬱蒼と茂る林の奥に曲がりくねった道があり、懐中電灯の光を頼りに進む。
別に何もなかった。というより、そもそも廃墟に入れなかった。
建設会社か不動産会社か、とにかく社名の入った看板が掛かっており、許可なく立ち入った場合は云々といった警告文が書かれていた。当時の竹内さん達はアホだったが、警告を無視して侵入するレベルのアホでもなかった。
テンションだだ下がり。飲みに行く気にもなれずその日は解散となった。
蚊に刺されるわサンダルのヒールで足首がグキッとなるわ、散々な思いをして帰宅した竹内さんは入浴の際にピアスを外そうとして、愕然とした。
彼氏から誕生日プレゼントとして贈られたダイヤモンドのピアスを落としてしまったらしい。車から降りるまでは確かにあったはずだから、きっと林の中で紛失したのだろう。
大事なピアス。しかし今から探しに行くなんて冗談じゃないし、第一あんなだだっ広い場所のどこを探せばいいのか。叱られるのを覚悟で訳を話して日中一緒に探してもらおう。
そう思い、とりあえず就寝した。
深夜、ふと目が覚める。闇に目が慣れた頃、竹内さんは変な物がある事に気づいた。
白っぽい。何かぐねぐねした、タコみたいな物に見える。それは仄白い燐光を発する痩せた女の体だった。
ず、ざ、ずっ……。ぐんにゃりした体を引きずり、女がフローリングを這いはじめた。骨が折れているのか、必死に進もうとして身をよじるたび、手足がぐにゃぐにゃ蠢く。ず、ざっ……、ず。
這って進もうとして、折れた手首がグニャリと曲がる。関節の可動域を無視してそっちこっちへ投げ出された両足が床板の上で絡まり、解けて、もつれる。それでも女は健気に竹内さんの布団を目指した。
ず、……ずっ。ざ、ぐに。腐敗して脆くなった皮膚がフローリングとの摩擦で破れ、女は床に腹の中身を散らかした。それでもめげずに、頑張ってぐにゃぐにゃ這ってくる。
硬直する竹内さんの顔に、女の顔が被さってきた。
「お、お、あ、おと、おと、ひ、もおぉぉ……」
女の眼窩には眼球の代わりに土が詰まっていた。がぱりと開けた口の中に歯は一本もなく、土まみれの舌が不器用にぐにぐに動いている。ちぎれかけた片耳で銀色のイヤリングが揺れていた。
「おと、おろ、ひ、も、ものぉ、おとひおのおおぉ」
胃液の酸っぱさに泥臭さを足したような臭いがした。
「おろ、ひ、おとひ、おとひものおぉ……」
顔面に泥みたいな何かが落ちてきた時、竹内さんは都合よく気絶した。
翌朝、無事に目覚めた竹内さんは枕元に件のピアスを見つけた。損傷はなく、土や泥も付着していない。
もしかしたら、昨晩のグロい女は親切心でピアスを届けてくれたのかも。そう前向きに解釈して、竹内さんは昼のうちに一人廃墟へ向かい、コンビニで買った線香とジュースを供えた。
その日の夜、またふと目が覚める。しかし竹内さんに恐怖はなかった。自分の感謝の気持ちによってグロ画像みたいな霊が生前の綺麗な姿になり、成仏する。そんな可能性を信じていた。
しかし横たわる竹内さんの顔を覗きこんできたのは、どこかに行ってしまった眼球の代わりに土をいっぱい詰め込んだ、あのグロい顔面だった。
「ぴあ、ふ、ぴあふ、おう、いた、ひ、まひ」
土と唾液が混じったものを滴らせながら、女はぐにゃぐにゃの手で竹内さんの布団にすがりついた。間近で見た女の顔は皮膚が崩れて垂れ下がり、溶けるチーズのパッケージ写真みたいになっていた。笑顔を作る動きによって腐敗しかけの皮膚がびろんと伸び、ついには落ちて、傷んだ桃によく似た中身が露出する。
「あい、あり、あいが、と、ねえ。おへん……こぉ、おせんこ、はりがとぉ、ねぇ」
斬新なお話。
グロイイ話
怖い
新しいそして優しい
良い話なんですけどね。
ちょww 怖いんだかカワイイんだかww
好きです。
律義で素敵
律儀なのは分かるんだけど痛々しいからそんなに無理していちいち枕元に来なくてもええわw
あと早く成仏してください
嬉しかったんだなぁ。
ほっこりした
臭イイ話
怖いわww
笑い取ってるんかーい!毎晩楽しそうでいいじゃない。
って、成仏せえへんのかーい!