絵でも写真でも、どんなものでも、“複製される”ことで価値は下がってしまいます。
オリジナルには、その存在そのものに意味があり、唯一無二の価値がありますが……コピーは所詮コピー、模造品でしかありません。
これは、デジタルデータに関しても言えることです。
画像や映像は、複製され、圧縮され、何度もフォーマットを変えられるうちに、次第に画質が劣化し、ノイズが入り、本来の姿を少しずつ失っていきます。何千、何万とコピーされて出回る頃には、もう原形すら留めていないこともあります。
複製されると、価値が下がる。説明するまでもなく、当たり前のことだと思っていました。
* * *
とあるオカルト系のWEBサイトを運営している田山さん(仮名)。
田山さんと出会ったのは、あるオカルト系掲示板のオフ会でのことでした。
その掲示板には、日頃から私もよく書き込みをしており、オカルトや都市伝説に関心を持つ者同士が、情報を交換したり、怖い話を披露し合ったりしていました。
オフ会には十数名ほどが参加していたのですが、その中でも田山さんとは妙に波長が合い、自然と引き寄せられてしまったのを覚えています。気づけば、他の参加者とはほとんど話さないまま、田山さんとだけ何時間も語り合っていました。
今思えば、あのときの私は、彼の「何か」に惹かれていたのかもしれません。
「オカルト系の記事とか書いてると、何か霊的な体験をしたり、気をつけていることがあったりするんですか?」
わたしが興味本位で訊ねると、田山さんは軽く笑いながら「いやー、霊感ないんで、そういうのには縁がなくてね」と答えます。──が、しばらく考えるような素振りを見せてから、ぽつりと。
「……あー、でも一個だけ、妙なことがあったかな」
その声は、それまでの軽やかなトーンとは少し違っていました。
「画像の転載には、ちょっと気をつけた方がいいって話なんだけど」
その一言に、わたしは耳を傾けました。
「確かに、最近は著作権やコンプライアンスの問題が厳しくなっていますからね~」
苦笑する田山さん。
「あー、まぁそういうのもあるけど、そういう話ではなくて……危険なんですよ。無暗やたらに転載すると、変なモノが憑いている可能性があるから。特に、画質が劣化している画像はね」
田山さんは、真剣な表情で、自身の体験談を語りはじめました。
* * *
数年前、田山さんがとある記事をに記事を作成していたときの話。テーマは、「ネットで最も恐ろしいとされる画像」のまとめ記事。
「ほら、よくあるじゃん。『マジでやばい画像貼ってけwww』とか『閲覧注意!!』みたいなスレ。そういうのをまとめるやつね」
2chやふたばちゃんねるなど、2000年代初頭の掲示板でに話題になった画像を収集して、記事として整理する。画質の悪いものは、できる限りオリジナルに近いもの、高解像度のものを探して差し替える。
──ただ、それだけの作業を繰り返す。
しかし、ある一枚の画像だけは、どうしても荒れたものしか見つからなかった。
「モザイクみたいになっちゃってて、もう、何が写ってるのかもわかんないくらいのやつ。でも、それが“逆に怖い”って話題になってたんだよね」
その画像は、何度も再アップロードされた形跡があり、ファイル名もバラバラ、画質もどれもひどく劣化していた。
仕方なく、最もマシなバージョンを保存して、記事に使おうとした……その瞬間。
霊感ない人でも気配とか感じることあるんだ。
怖いな。