彼が語るその内容は、どういうわけか私が幼い頃に繰り返し見た悪夢そのものだった。
夢が現実を侵食し、目が覚めても薄れることのない恐怖。
その夜もまた、私は悪夢にうなされて目を覚ました。
裸電球のかすかな光が部屋の隅をぼんやりと照らし、夜風が窓をきしませていた。
一瞬の安堵が全身を覆った次の瞬間、足元から「ごそごそ」と何かが動く音が聞こえた。
冷たい感触が布団越しに伝わり、背筋が凍った。
意を決して布団をめくると、そこにいたのは「アイツ」だった。
泥だらけの髪、狂気を宿したギラつく目、歪んだ笑みの口元には赤黒い何かがこびりついている。
痩せた身体に不釣り合いな右手には、錆びた草刈り鎌が握られていた。
その姿が目に入った瞬間、喉が凍りつき、声が出なくなった。
「ヒヒヒヒヒ」
耳を刺すような笑い声が静寂を切り裂く。
アイツはぎこちない足取りでじりじりと近づいてくる。
冷たい風が部屋を吹き抜け、私の肌を刺した。
体は硬直し、逃げ出すどころか一歩も動けない。
ただ、錆びた刃が振り下ろされる瞬間を待つしかなかった。
次の瞬間、膝から下がスパッと消えた。
だが奇妙なことに血は出なかった。
むき出しの筋肉と骨が視界に入り、痛みもない。
あるのは、自分の体が壊れていく音と、圧倒的な恐怖だけだった。
アイツの刃は次々と私の四肢を切り落としていく。
やがて私は壊れた人形のように床へ転がり、目しか動かせなくなった。
その瞬間、場面が変わった。
気がつくと私はベッドの上にいた。
荒い息を整えながら、夢だったのだと安堵する。
だがその安堵は、再び聞こえてきた「ごそごそ」という音で破られた。
布団越しに視線を向けると、そこには再びアイツがいた。
※コメントは承認制のため反映まで時間がかかる場合があります。