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不思議体験

セイスケくんさんによる不思議体験にまつわる怖い話の投稿です

夫の影
短編 2024/11/16 11:47 107view

私にはIT関連の仕事をしている夫がいる。

彼は真面目で責任感が強く、プロジェクトの締め切りが近づくと夜遅くまで働くことが多い。

普段は疲れていても、家に帰れば笑顔で「ただいま」と言ってくれる。

その日も、夫から

「今日も遅くなりそうだ。先に寝てていいよ」とメッセージが入った。

ベッドに入ろうとしたが、なぜか胸騒ぎがして眠れない。

窓の外を見ると、月明かりが静かな街を照らしている。なんとなく落ち着かず、私は車に乗り込んだ。

エンジンをかけ、深夜の街を走る。街灯の明かりが車内を不規則に照らし、心のざわつきを増幅させる。夫のオフィスビルに近づくと、周囲は深い静けさに包まれていた。

車のエンジン音すら場違いに感じられるほどだ。

会社の駐車場に車を止め、ビルの窓を見上げる。3階の夫の部署のフロアから淡い光が漏れている。スマートフォンを手に取り、時間を潰そうとしたが、指が震えて画面をうまく操作できない。

そのとき、背筋に冷たいものが走った。

誰かの視線を感じる。思わず顔を上げると、3階の窓際に人影が立っていた。暗闇の中でも、その視線がこちらに向けられているのがはっきりとわかる。

夫だろうか?しかし、何かがおかしい。姿勢が不自然で、まるで動いていない。

もう一度よく見ると、オフィスの奥にもう一人の人影が見える。

デスクのあたりで忙しそうに動いている。その動きは、間違いなく夫のものだ。では、窓際に立っているのは誰なのか。

心臓が激しく鼓動を打ち、呼吸が浅くなる。冷静になろうと深呼吸を試みるが、手の震えは止まらない。意を決して車から降り、オフィスの入り口へと足を進めた。

夜風が肌に冷たく、全身に鳥肌が立つ。

ビルのロビーに入ると、冷たい空気と静寂が迎えた。照明は最低限しか点いておらず、薄暗い空間が不気味さを増幅させる。

エレベーターのボタンを押す指先が冷たく感じられる。ドアが開くのを待つ間、もう一度夫に電話をかけた。しかし、呼び出し音が虚しく響くだけで応答はない。

そのとき、背後から微かな足音が聞こえた。

振り返ると、そこには夫が立っていた。驚きと安堵が同時に押し寄せる。

「待たせてごめん」と彼は微笑んだ。

しかし、その笑顔には何か違和感があった。
肌は血の気がなく白く、目の光がどこか虚ろだ。
普段は汗ばんだ額も乾いたままで、まるで生気が感じられない。

「大丈夫?仕事、大変だったんじゃない?」と尋ねると、彼は少し間を置いて

「ずっと働いてたよ」と答えた。その声は冷たく、感情がこもっていないように感じられた。

二人で駐車場へ向かう道すがら、夫は一言も話さなかった。

私は何か話題を探そうとしたが、言葉が出てこない。隣を歩く彼からは、いつもの温かさが感じられなかった。

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