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ヒトコワ

Flounderさんによるヒトコワにまつわる怖い話の投稿です

廃坑の悪意
短編 2024/11/09 20:08 710view
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以前書かせて頂いた『廃ビルの革命家』のAに聞いた話の1つです。

例の廃ビルを訪れる数年前、Aはとある廃坑を訪れました。

本来であれば発見率の低い、つまりは監視カメラ等に移りづらい夜間に廃墟探索を行うのがAの常套手段だったようです。
ですが、その廃坑へ通じる林道は麓の町からよく見える位置にあり、「夜間に車で向かうと木越しとはいえヘッドライトで見つかる」と考え、セオリーを破り昼間に探索をしたそうです。

その廃坑には選鉱場や職員宿舎、管理施設も残っており、A的には「見どころたっぷりで大満足」だったそうです。
坑道を封鎖していた板も一部廃墟マニアの手によって剝がされ、鉱山内部へ入ることも可能だったようですが、スニーカーと懐中電灯一本で探索するのは危険すぎる、と考え周辺施設の探索のみに留めました。

その施設の1つ、精錬所か鉱石粉砕施設の跡地と思しき建物内に入った直後の事です。

窓もないその建物の中は真っ暗でした。持ってきた懐中電灯を点灯して放置された機械や備品を眺めつつ、建物内を歩いていたAでしたが、何かに躓いて転倒しました。

懐中電灯も取り落とし、その衝撃で電池が飛び出てしまいました。

建物の床は僅かに傾斜しており、電池の1つが建物の奥へ転がっていきました。
入口から入ってくる明かりを頼りに転がった電池をAが追いかけていると、不思議なことに転がり続けていた電池が急に止まったそうです。

拾い上げた電池を懐中電灯に入れ直し、Aは電池の止まった辺りを照らしました。
よく見ると、大きな板のような物が床に置いてあり、その縁に当たって電池が止まったと分かりました。

Aが何気なくその板に手をかけると、思ったより軽く楽に持ち上げる事が出来ました。
大きさの割に薄い、コンパネのような物だったそうですが、その板の下にあった物を見たAは硬直しました。

それは、深さ5m、直径3mほどの穴でした。何かの機械が設置されていた跡なのか、人が入ることを想定していないようで、出っ張りや穴も殆ど無い、落ちたら自力で脱出するのは不可能なものです。

その穴を隠すように、2枚の板が被せてありました。鉱山を放棄した際に塞がれた物なら、転落防止にバリケードを置いたりロープを張ったりしそうなものですが、そういったものは一切ありませんでした。

Aは板に見覚えがありました。その建物の入り口に残されていた資材の1つです。

持ち上げていなかった板を照らしたAは恐怖のあまり「うひゃっ」と声を上げてしまいました。
もう1枚の板には埃が周囲の床と同じように積もっていたのですが、それに違和感がありました。
積もり方が不均一で、まるで「誰かが集めた埃を板の上に手で振りかけた」ように見えたそうです。

Aはすぐに建物から飛び出し、何かを仕掛けることの出来ない舗装された道を選んで自分の車まで歩き、廃坑を後にしました。

その話を聞いた時、私は「なぜそんなことをしたんでしょうか」とAに問いかけてみました。

Aは「ただのイタズラのつもりだろ」と簡潔に答えました。
そして、こう続けました。

「人間ってのはな、姿が見えない所に居る相手、手が届かない所に居る相手にはな、どんなひでえ悪意だって向けられるもんだ」と。

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