写真の男
投稿者:kwaidan (17)
都内に住む会社員のAさんの話である。
Aさんが働くオフィスは、新宿区にある高層ビルの一角に位置していた。毎日、数百人の社員が行き交うそのビルの一室で、Aさんは一人残業をしていた。
その日も深夜までデスクに向かい、書類の山に埋もれていた。時計の針が午前二時を指した頃、オフィスの片隅からかすかな音が聞こえてきた。「カタカタ…カタカタ…」と、まるで誰かがタイピングしているような音だった。Aさんは首をかしげた。もう誰もいないはずだ。
彼は音の方向に目をやると、オフィスの奥にある会議室のドアが半開きになっているのを見つけた。恐る恐る近づくと、そこには誰もいなかった。ただ、パソコンの画面が微かに点滅していた。おかしい、会議室のパソコンは電源を落としておいたはずだ。
その瞬間、背後から冷たい風が吹き抜けた。ぞっとして振り返ると、デスクの上に置かれていた書類が一斉に床に落ちていた。Aさんは慌てて書類を拾い集めたが、その中に一枚の見覚えのない写真が紛れ込んでいた。
それは、どこか古びたオフィスの写真だった。
窓際には一人の男性が立っていて、その目はAさんをじっと見つめているようだった。
恐怖にかられたAさんは、その写真を破り捨てた。しかし、破られた写真の断片が再び一枚の写真として机の上に戻っているのを見た時、彼は全身が凍りついた。
Aさんはすぐにデスクを片付け、オフィスを後にした。エレベーターに乗り込むと、背後でまた「カタカタ…カタカタ…」という音が聞こえた。
エレベーターのドアが閉まる直前、振り返ると会議室のドアが完全に開いていた。中には、あの写真の男性が立っていた。
彼はその後、オフィスに戻ることを避けるようになった。
上司に事情を説明すると、驚いたことに、過去にも同じような体験をした社員が何人もいたことが分かった。
だが、その詳細については誰も話したがらない。
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