深夜の乗客
投稿者:綿貫 一 (31)
これは、タクシードライバーのAさんから聞いた話である。
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Aさんは深夜、広い霊園の中の道を、車を走らせていた。
その日は雨の金曜日で、飲み会帰りの客がよく捕まった。
今も一人、客を目的地まで運んできた帰りである。
再び人通りの多い道を流すため、近道をするのにこの霊園を通過していた。
自然とスピードが上がっていた。
ぽつりぽつりと街頭が灯るだけの、暗い霊園内を走らせていると、不意に『ある怪談話』が思い出されたからである。
「あるわけない。あるわけない」
Aさんは苦笑してひとりごちたが、直後、少し先にある街灯の足元に、手を上げる人影を見つけてしまった。
その人影は、ふら、ふら、と頼りなげに揺れている。
ウインカーを出し、スピードを落として近づくと、はたしてそれは、傘をさした髪の長い女だった。
うつむいていて、顔はよく見えない。
(うわ、イヤだな……)
Aさんは思ったそうだ。
頭に浮かんだ怪談話とよく似た状況に、なんだか嫌な予感がしたのである。
女は気だるげな動きで後部座席に乗り込んできた。
女と一緒に、様々な「におい」が流れ込んでくる。
雨の匂い。
線香の匂い。
そして――
(――酒くさっ!)
どうやらこの女は、大量にお酒を召し上がっているようで、車内は瞬く間にむせかえるような酒のにおいで満たされた。
においだけで酔ってしまいそうだ。
「――どちらまで?」
顔をしかめるながらAさんが尋ねると、
「○○町の~…、××の×まで~……」
女は、呂律の怪しい口調で行き先を告げると、そのまますぐに寝息を立ててしまった。
霊園を抜け、駅前を通り、静かな住宅街を進む。
オチがいい。面白かったです。
綿貫です。
おあとがよろしいようで。
たましい忘れてますよーww
いや、からだを忘れていったのでは?
わたしは体だと思います。