拝啓 土の下より
投稿者:綿貫 一 (31)
今から40年以上も前の話だ。
その夏、私は家族とともに、田舎に住む祖父母の家を訪れていた。
毎年、お盆の時期になると、里帰りをするのが我が家の習わしだった。
当時、小学2年だった私は、年に一度のこの旅行を楽しみにしていた。
田舎には、普段一緒に遊んでいる友達もいないし、遊園地やおもちゃ屋もない。
代わりに、都会にはない豊かな自然があった。
幼い私にとって、それは最高に面白い遊び場だった。
夜になると蛍が飛び回る水田。
小魚を捕まえたり、水遊びをしたりできる川。
カブトやクワガタが、山ほど採れる深い森。
毎年、私は朝から晩まで、田舎町を駆け回っていた。
そして何より、年に一度だけ会うことのできる友達がいた。
祖父母の家の近所に住む、ふたつ年上の女の子で、私は「お姉ちゃん」と呼んで慕っていた。
彼女と一緒に遊ぶことが、田舎に行く一番の楽しみだった。
……
……
しかし、この夏、私はひとりぼっちだった。
田舎に着いた初日、荷物を祖父母の家に置くや否や、私はお姉ちゃんの家に向かって駆け出していた。
今にしてみれば、祖父母は私を呼び止めようとしていたのだが、その制止も、私の逸(はや)る心には届いていなかった。
息を切らしてお姉ちゃんの家の前まで来ると、ワクワクしながら呼び鈴を鳴らした。
しばらく待つと、お姉ちゃんの母親が顔を覗かせた。
一年前に見たときにはふくよかな印象の女性だったが、その時の彼女は、まるで空気が抜けた風船のようにげっそりしており、目には生気がなかった。
「ああ……純くん、今年も来たのね……」
「うん! おばちゃん、お姉ちゃんは?」
私は、彼女の弱々しい様子に気をかけるでもなく、目当ての人の在否を問うた。
「ええと、ね……」
彼女は、一瞬口ごもった。
そして、私から視線を逸らすかのように、微かにうつむいた。
「ごめんね、今はいないの……。
お友達と、お泊りに行っちゃって……。
今年は、純くんと一緒に遊べないと思うわ……」
最後の余韻が怖かった
実話なのか、夏の田舎での早朝の森の様子が手に取るよに分かり怖さを倍増させていてあっぱれです。
ひきこまれました。
うむ🫤
場面の移り変わりや、時間帯や季節の描写が印象的。最後の2行は、主人公が既に闇落ちしていることを示唆しているのでしょうか。