【悲しい灯 事件】-女子高生 朽屋 瑠子-
投稿者:kana (210)
「じゃ、母さん、ちょっと早いけど、ボク心配だからこれから陽菜(ひな)を迎えに行くよ」
「あなた、行ってらっしゃい」
「あぁ、じゃ行ってくるよ・・・」
K氏の家からクルマが出る。塾で遅くなる娘を、いつもこうして迎えに行くのだ。
・・・だが、その娘はもうこの世のものではない。
3年前のある日、塾帰りの当時中学1年生だった陽菜と、友人のサキ、ユイの3人は、
飲酒運転の暴走車に跳ねられ、この世を去っていた。
その日から、世間では飲酒運転の罰則が厳しくなり、塾には警備員がつくなど、社会インフラは幾分安全にはなったけれど、K氏の心は晴れなかった。
仕事を優先し、家族を顧みず、娘の送り迎えひとつもできなかった自分を恥じ、
娘の死は自分の責任だと強く思い込んだK氏は、それからガラリと人が変わってしまった。
恰幅の良かった体格も、今はげっそりとやつれ、背中を丸めて歩くことが多くなった。
なんでもない日常で、ただ呼吸しているだけなのに、なぜかしゃくりあげることもあった。
まるで子供が泣くときのように・・・もう涙は涸れ果てたのに、心が泣いているのである。
妻の勧めもあって心療内科へ行くと「鬱病」と診断された。
パキシル、ソラナックス、マイスリー等いろいろな薬を処方され、薬漬けの日々が続いた。
仕事も残業のほとんどない部署に回され早く帰れるようになったが、そのことがK氏をまた追い詰めることもあった。「今さら早く帰れてもなんの意味もないじゃないか・・・」
だから・・・
塾で迎えが来るのを待っている陽菜の霊は、K氏の唯一の心の支えでもあった。
そんなK氏のクルマが細い路地に入り込んだ時、突如目の前に黒い影が立ちはだかった。
ブレーキをかけて停まるK氏。クルマを降り「大丈夫かね、キミ!」と声をかけた。
交通事故の恐ろしさを知っているK氏だからこそ、尚更に歩行者に寄り添おうとした。
だが、そいつは明らかに歩行者などではなかった。
全身真っ黒で、なんとなく輪郭がぼやけているように見える。
こちらを向いた顔は真ん中から二つに割れており、一つの頭に顔がふたつあった。
その4つの金色の瞳がK氏を見つめる。
一瞬ひるむK氏。だが、すぐにこれは幻覚なのだと自分を納得させた。
最近、薬のせいなのか自分の症状が悪化しているのか、たまに巨大なクモや緑色に光る眼の宇宙人などを室内で見ていた。外で見るのは初めてだったが、自分に幻覚だと言い聞かせて落ち着いた。
「フフ、キミは私の姿を見ても驚かないのだね。なかなか肝が据わっている」
・・・その魔物は低い声でK氏の様を称えた。
「私はビフロンス。キミに良い話を持って来た」
kamaです。朽屋瑠子第10作目は、VS 悪魔ビブロンス戦です。
今回はボクの作品の中でもとくに悲しく救われない話となっていた「悲しい灯(ともしび)」の解決編ともなっています。そちらも併せて読まれると、世界観が広がると思います。
お盆休みの暇な時間のお供に、ぜひどうぞ。
kamaです。誤字脱字などいくつか修正しております。もし見つけた方はお知らせください。よろしくお願いします。
いい話だ。
ただ、ちょっと長いで( ´∀`)。
いつも楽しく読ませて頂いております
クッチャルコ新作、待ってました!
心温まる話でハッピーエンド、いいストーリーでとても良かったです
次回作も期待してます
↑kamaです。コメントありがとうございます。ちっょと長いですが、これでもがんばって半分の長さにしました。半分って、すごい削除量でしょw
怖くは無かったけれど面白かったです。
怖いというか、詐欺師ってこうやってだましていくのかという別の怖さがあった。
陽菜ちゃんと同い年の中学生くらいの子たちに読んでほしい気がする
↑kamaです。コメントありがとうございます。
楽しんでいただけて何よりです。朽屋瑠子シリーズはボクが一番楽しんでいるので、同じ目線で見てくれている読者様にはとくに感謝いたします。残念ながら今回出番がかなり短いですけど、これも半分に削ったためですね。削る前のオリジナルでは朽屋が赤ちゃん言葉を使うシーンと、仲間にパンツ見られるシーンもありました。(どんどん怪談から遠くなるので削除)
・・・またいつか別の機会に。
一同に会するじゃなくて一堂だと思います
↑kamaです。ありがとうございます。修正させていただきました。本当に助かります。またなにかありましたらご指示よろしくお願いします。