【USAのUMA事件】-研修生 朽屋瑠子-
投稿者:kana (210)
「ヒャッハーーー!!」
夜の大草原に雄叫びが響き渡る。
SUVのエンジンが唸り、巨大なタイヤが土を巻き上げる。
轟音と共に猛スピードで大地を駆けていくSUV。
オープンになった上部には、アサルトライフル(軍用突撃銃)を持った男数人が身構えている。彼らの持つ銃からはグリーンの高輝度レーザーが夜の闇に向けて光跡を出している。
その狙った先に、次々とフルオートで弾丸が撃ち込まれていった。
辺り一面に響き渡る銃撃の雷鳴と漂う硝煙の匂い、その都度、阿鼻叫喚の叫びが聞こえる。
飛び散る血しぶきと土埃が、走るSUVの後方へどんどん消えていく。
クルマに積まれたサーチライトが辺りを照らしだす。そこに映る黒い塊たちは走り出し、逃げ惑う。そこへ向かってまた発砲が繰り返される。
止まらない銃撃音。逃げ惑う黒い塊たちは、なすすべもなく弾丸を受け地面に叩きつけられる。逃げているうちにSUVの前に飛び出してくる奴もいるが、SUVはスピードを落とすこともせず、その巨大なタイヤで黒い塊たちをそのまま踏みつぶしていく。
まさに虐殺。相手が撃ち返してこないことがわかっている状態で、殲滅をしているのだ。
どんな方法でも良い。とにかく皆殺しだ。
ここはテキサスの農場。収穫シーズンを終えた広々とした農地だ。
ここで農民たちを苦しめているのが野生化した野ブタである。
そう、先ほどまで戦争でもしているかのように男たちが狩っていたのは、実は野ブタなのである。その数、数百頭。まだ子供の野ブタも大勢いるようだ。
ブタと言っても野生化した彼らの姿は、イノシシそのもの。巨体で猛スピードで走り、数十から数百頭の群れを作って活動する彼らは、危険極まりない野生動物であり外来種だ。
彼らは夜間の内に農地に入り込み、土を掘り返して土地をめちゃくちゃにしていく。牛用のエサを食い漁り、施設を破壊し、せっかく植えたものもすべて掘り返されるなどして、ここテキサス州だけでも毎年5200万ドルの被害が出るといい、年間を通して頭数制限なしの駆除対象とされている。
日本ではイノシシ狩りなどと言うと山に入って単独、または複数人の猟師による巻き狩りが主体で、罠を仕掛けて生け捕りにすることもあるが、せいぜい1頭か2頭がたまに捕れるくらいだ。しかし、ここテキサスでは数百頭単位の群れであり、生け捕りにするための罠も数10頭を一度に捕まえられる巨大な罠を準備する。
元はと言えばブタもイノシシも、この地に持ち込んだのは人間である。
それが今、野生化して人間たちの農地を荒らして、それをまた大規模駆除しているのだから、まるで巨大なマッチポンプ。タチの悪いアメリカンジョークと言ったところだ。
このような野ブタが今、アメリカ全土で600万頭はいると言う。
ちなみに冒頭の彼らが使っている銃はアメリカで市販されている軍用ライフルであるが、法律によってフルオート射撃はできないようにして販売されているものだ。
ところが最近、これをある方法で簡単にフルオートにしてしまう改造ストックが出回り、アメリカ国内でも問題視されるようになっている。だがテキサス州は特に銃器には優しい州で、規制も緩い。彼らは改造した軍用ライフルで、野ブタを相手に思う存分戦争ごっこを仕掛けたというわけだ。
・・・・・・
翌朝、戦争の終わった農地に、農場オーナーがクルマで向かった。
昨夜銃を振り回して大暴れしたシロウト兵隊たちが、まだ戻っていないのだ。
あちこちに散らばる大量の野ブタの死骸。
やがて見つかる横倒しになったSUV。そしてその周囲に横たわる数人の男たち。
昨夜のシロウト兵隊たちに間違いない。が、彼らの顔を確認することはできなかった。
なぜなら、頭から上が無くなっていたからだ。
kamaです。
朽屋瑠子シリーズも今作で7作目となりました。過去作品もお読みいただくと、より世界観が広がると思います。よろしくお願いします。
今回のお話は、朽屋瑠子シリーズの中でも最も長編となった【より子ちゃん事件】で瀕死の状態になった朽屋が復活する過程でアメリカに研修に行っていた時のお話になります。
朽屋シリーズは時系列がバラバラなのはご了承ください。
ロマンホラーって感じで、気軽に楽しんでいただければと思います。
また誤字などありましたらお気軽にお知らせください。
先生の久しぶりの力作を楽しみです。
↑kamaです。毎度読んでいただきありがとうございます。
朽屋瑠子シリーズは別に怪談としてぜんぜん怖くないし、なんなら中二病全開で、話も長くてYoutubeでも2回くらいしか朗読されたことありませんが、自分で書いてて一番楽しいです。
えぇ、これが自己満足の世界というやつです。
「沖縄のキャンプ座間」が気になってしまいました。沖縄なのか座間なのか。今後のストーリーに影響なければ流すのですが。
↑kamaです。設定のご指摘ありがとうございます。「沖縄」をはずさせていただきました。
実は最初に書いた原稿で、大佐が沖縄のキャンプシュワブにいた設定にしていたのですが、
ご存じの通りキャンプシュワブは米海兵隊の基地で、グリンベレーと海兵隊の協力関係があったという設定もできますが、やはり陸軍は陸軍ということで、途中で座間に変えたのですが、沖縄のまま進めてしまいました。ご指摘大変ありがたいです。またなにかおかしなところがあったら教えてください。
ラストの方でチョコバーを差し入れるマーベリックがかわいくてちょっと萌えました。
↑kamaです。コメントありがとうございます。萌えは大事ですね。
学業と訓練の二刀流の瑠子、カッコいい!
↑kamaです。コメントありがとうございます。でも、実質1年留年です。そこはテヘペロです。
ちょっと待て、16歳の太ももで三角締めって、ご褒美じゃねーか!
最近、射撃場という言葉をよく目にする。ひとつはこの作品。もうひとつは自衛隊のニュース。
出だしのセリフ、北斗の拳かと思った。