雨の帰り道
投稿者:take (96)
仕事で付き合いのあるE美さんから聞いた話です。
彼女の実家は、田んぼに囲まれており、
高校への通学路は、そのほとんどが農道でした。
舗装されていないところも多く、雨の日は大変でした。
遠回りすれば、舗装した道路もあるのですが、
時間の貴重さには変えられません。
ある日、部活動で遅くなり、家路を急いでいました。
しとしとと嫌な雨が降っていて、薄暗く、陰気な雰囲気でした。
泥濘と水溜りだらけの農道を歩くのは、気が進まなかったのですが、
遠回りして、余計に時間が遅くなるのも嫌だったので、農道を選びました。
誰もいない農道を、泥が跳ねないように、水溜りを避けて、うつむき加減に歩いていると、
いつのまにか、後ろからざくざくという足音が聞こえてきました。
あれ、いつの間に? と思いつつ、ちらりと傘越しに背後を窺うと、
長い茶色のロングスカートに、白いハイヒールだけが見えました。
相手が女性ということで少し安心し、こんな足元の悪い道を、ハイヒールなんて気の毒だな、と思いました。
そのうち足音が近づいてきて、ほとんど真後ろを歩いているような形になったのです。
あまり広い道ではありませんでしたが、追い抜くくらいの幅はあります。
追い抜いていけばいいのに……傘が邪魔なのかな、と、思ったE美さんは少し端へ寄りましたが、
相手の女性は、斜め後ろを、歩調を合わせたように歩いています。
少し気味が悪くなり、思い切って、お先にどうぞ、と立ち止まろうとした時です。
傘の陰から、ぬうっと、女性がE美さんの顔を覗き込んできたのです。
長い黒髪、真っ白な顔、細く吊り上がった目に、真っ赤な口紅。
その顔は、まったくの無表情だったと言います。
E美さんは悲鳴をあげて、傘を取り落としながら、後ろへ飛び退きました。
しかし次の瞬間には、女性の姿はどこにもありませんでした。
振り返ると、ぬかるんだ農道にはE美さんの足跡しかついていません。
E美さんは、それから帰りが遅くなったり、雨が降っている時は、
農道を使わずに遠回りするようになったと言います。
「今もあの女の人の顔が忘れられないんですよねえ……まるでマネキンみたいでした」
E美さんは寒そうに肩をすぼめて言いました。
想像したら寒気やっばい