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prudence1968さんによる不思議体験にまつわる怖い話の投稿です

祖父の最後の就寝
短編 2023/02/11 11:43 2,327view
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私が同居していた父方の祖父は、7種類の薬を毎日飲んではいたものの、タヒ因となるような大病は患っていなかった。
80歳を過ぎても、寝たきりや痴呆になるでもなく普通に暮らしていた。
酒は祖母に禁止されていたが、煙草は吸っていた。

しかし、畑仕事や好きだった庭木の手入れなども段々としなくなり、家の中で過ごすことが増えた。
話しかけても、「うーん」みたいな感じで反応するだけで会話も減り、じっとうつむいている姿は何だか淋しそうに見えた。
そうこうしている内に、祖父の様子がさらに変わってきた。
「孫らが来たようだ。車の音がするからおもてを見てみろ。」と、来てもないのに祖母に言ったり、
「何の鳥だ?きれいな鳴き声がする。」と、何も鳴いていないのに訊いたりするようになった。

「じいちゃんもさすがにボケ始めたかな。」と家族で心配した。
ただ、当時は、ボケなどを改善しよう、なんて考えおらず、高齢者がボケるのは仕方がないものと捉えていたため、祖父に対して何かをしてあげようとは、家族の誰もが思っていなかった。

今考えるとそれが恐い。

そんな祖父がある晩、祖母に「今夜は奥出で寝たい。」と言ったらしい。
「奥出」というのは、多分うちの田舎の方言で「仏間」のこと(字が違うかも)。
うちの田舎では、仏間で就寝するのは普通のことで(どこでもそう?)、親戚が来た時もそうするし、自分が帰省した時もそうすることがある。

話がそれたが、祖母は「今から布団を敷き直すのも面倒だし、今夜はやめときなさい。」と、祖父の希望を却下したらしい。
翌朝10時頃、祖母が祖父用の遅めの朝食を準備していると、長女(私の父の妹、すなわち私の叔母)が久しぶりにひょっこりやって来たんだそうだ。
祖母が「どうしたの?急に」と訊くと、「今朝になって何となく実家に行こうかと思って仕事を休んだのよ。」と言ったらしい。
そして、「お父さん(ここで言っている私の祖父)はまだ起きてこないの?」と訊く叔母に、祖母はそろそろ朝ごはんができるので起こしてきて欲しいと頼んだ。

叔母が祖父を起こしに行くと、すぐに血相を変えて戻って来た。
「お父さんが動かない、息してない!」

亡くなっていた。タヒ因は老衰だった。
仏間で寝たいと祖父が言ったのは、おそらく今夜が自分の最後の就寝だと分かっていたから、ご先祖様に囲まれてタヒにたかったのだろうと、家族や親戚と話した。
それが実現できなかったからなのか、長女(叔母)を呼んだんじゃないだろうか、とも。
祖母は仏間で寝かせてあげれば良かったと、済まなさそうにしていたが、そうなるなんて分からないことだし・・・。

当時はまだ土葬だったため棺は木製の桶で、祖父は膝を抱えるかっこうでそれに収められた。
その姿は、何だか膝を抱えた淋しそうな少年に見えて泣けてきた。
老衰にとどめを刺したのはいろいろな淋しさだったのではないか、と。

祖父を収めた桶は、孫が担いで墓地まで運ぶ風習だったので、自分も担いだ。
4人で担いだから当然ではあったが、祖父は軽かった。
桶の担ぎ手は、やはり風習で裸足に藁草履を履くことになっていたのだが、その日は2月の雨が降っており、足が冷たいなんてものじゃなかった。
その晩から高熱が出たのだが、もしかしたら祖父からの何かのお仕置きなのかも知れないな、とも思った。

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