奇々怪々 お知らせ

ヒトコワ

prudence1968さんによるヒトコワにまつわる怖い話の投稿です

フジコとルミ
長編 2024/11/03 22:52 1,464view
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長文失礼

 小学校時代の同級生だった女性が嫁ぎ先の地域の青年団長から聞いた話の又聞きです。話がややこしくなるため、代筆のかたちにして脚色もしています。
 また、タイトルや文中の人名は全て仮名で、「本名」と書いてあるのも話の筋上の表現であり実際の本名ではなく、また、各仮名は実在の人物と一切関係はありません。

 高校2年生のタカシ、もう一人同じ名前のタカシ、マサオ、のオカルト好き3人組は、廃屋から電話の音が聞こえるという噂がある廃村に着いた。住んでる町から自転車で2時間ほど。そこには十数軒の家屋があるようだった。屋根が落ちて完全に潰れた家屋もある。2軒に侵入して探索をしたが電話は見つからず。その後、より不気味なたたずまいをした、屋根の片側が落ちて大きく傾いた家屋を探ることにした。誰もいないとわかっていても、息を殺して足音も立てないよう、静かに歩いた。かろうじて原形をとどめている3部屋をまず回った。よくお徳用でせんべいとかが詰められている蓋つきの四角い缶があり、タカシ1はマジックでルミ、もしくは字が消えてルミコとかハルミとかだったかも知れないが、名前が書いてあることに気付いた。よく子どもが宝箱とかにしてるヤツだ。ここに住んでた子なのだろうと侘しく思った。ちなみにそのカンは空っぽだった。他には日本人形に驚いたくらいで特に何もなかった。次に、屋根が落ちて潰れかかっている側の部屋に足を踏み入れた。と、そこで見つけてしまった。黒電話が懐中電灯の光に地味に浮かんでいた。

「おい、電話があるぞ!」
 タカシ1はそう言うと同時に妙なことに気づいた。受話器の手で握る部分だけ、埃をかぶってなくてきれいなのだ。マサオは「まぁ、俺達みたいに探検しに来るやつらが試しに受話器を持ち上げてんじゃねーの」と言った。タカシ2が言った。「これが、鳴るって噂の電話だったりして」
「んな訳ねーだろ」とマサオがつっこむのを遮るように、ジリリリーッ、黒電話のあのでかい音が突然鳴り響いた。3人とも腰が抜けて倒れこんでしまった。電話は鳴り止まない。目をギュっとつむり、耳をふさいでうずくまっていたタカシ2とマサオは、音が鳴り止んだので電話の方を見てまたビビった。タカシ1が、あろうことか受話器を取って何か話していたからだ。タカシ2は、意外に警察からか、とも思ったが、そもそも電話線がつながってないだろ。
 マサオはタカシ1の腕を引っ張って家屋を飛び出した。受話器は放り投げてしまった。ほうほうの体で自転車を漕ぎまくって逃げてきた。帰り道は廃村のある山間地から町に向かっては下り坂だったので、スピードを出すのは簡単だったが、途中、山間地を抜ける辺りで車が来てぶつかりそうになり、危うく逃げるどころじゃなくなるところだった。町まで戻ってきたタカシ2とマサオは、タカシ1に電話で何を話していたのかきいてみた。

タカシ1の話はこうだった。
 まずはさ、電話を鳴りやませるには受話器を取らなきゃと思ってさ。で、電話を取って、なんつーか興味本位で耳に当ててみたわけ。そしたら「フジコよ。シュンジ?」って、向こうから話してきた。トーンの低い声でめっちゃ不気味だったけど、パニクってて、つい名前言っちゃったんだよ「えっ、えっとタカシと言います」って。そしたら突然、しゃがれた怒鳴り声に変わって「タカシだと?お前なにもんだ?そこを動くな」ガチャンだよ。マサオに引っ張られて受話器放る前には電話切れてた。
 マサオは、あの電話に出るのも、ましてや自分の名前を言うなんて、いかれてんのかとあきれていた。とりあえずあそこへ二度と行かなければなんともないだろう、峰不二子だったら良かったのにな、と冗談を言うくらいには落ち着いて3人は解散した。

 高校卒業後、3人はバラバラの大学に進学し、タカシ1とマサオは実家を出て一人暮らしを始めた。タカシ2は実家に残って通学した。大学2年生の夏休みに、お盆ということでタカシ1は帰省した。マサオとも示し合わせていて、帰省したらタカシ2と3人で会うことにしていた。いろいろバカ話をしていたんだが、マサオがふと思い出したように「そう言えば、去年の今頃だったかな、「タカシ君って知合いがいないか」って、変なおっさんに聞かれたことがあったよ。駅北のファミマでさ。お前ら二人いたけど、「ちょっと僕にはそういう知合いはいません」って答えたんだけどね。
 するとタカシ2が「すぐにタカシ1に連絡すべきか迷ったんだけど。」と前置きして続けた。
 この前さ、家にいたら電話がかかってきて母さんが取ったんだけど、母さんが言うには、電話に出たらいきなり、「タカシはいるか」って聞いてきたそうで、無礼な人だと思ってムッとしたけど、一応知合いかもと思って「今はいませんが」と居留守にしてくれたんだ。そんな失礼な知合いいるの?と聞かれたけどわかんなくて。でも思い出したんだよ、フジコを!
 で、その三日後くらいだったかな、今度はオレ一人で家にいる時に電話がかかってきたんだよ。イヤな予感がしたんだけど母さんへの電話かも知れないんで出たらさ、いきなり「タカシか?」って。心拍数振り切るかと思ったよ。「えっ、タカシだけどまぁタカシじゃないともいうか・・・」ってしどろもどろになってたら、「お前じゃない」ガチャンだよ。フジコに違いない。今のマサオの話からしても、お前を探してるとしか思えない、タカシ1。声も覚えてるんだよ、きっと。

 その場がお開きなって、タカシ1が実家に帰ると、お母さんが言ってきた。「さっき、電話あったよ。出たとたん名乗りもしないできりないタカシはいるか?って聞いてくる変な人。今一人暮らししてて、ここにはいないって言っといたけど良かったかしら」。タカシ1は、血の気が引いた。その後、風呂にも入らずベッドに横になって今日聞いた話を思い返している時だった。携帯の着信音が鳴り響いた。もしやフジコか、と思ったが、固定電話の番号が表示されていたことになんだか妙に安心して電話に出てみた。「もしもしタカシさんですか?」なんだか若い女の子のようだった。おっ、もしや何かのラッキーなのか?と思い、「はい、そうですが、どちら様ですか?」と答えると、しゃがれた声に変わって「見つけた、へっ」ガチャン。 

 おいおい、オカルト話や漫画の展開じゃんか、そんな話あるわけないだろ、とタカシ1は茫然とした。漫画みたいに電話の着信番号が全部0とか、着信履歴が残っていない、ということはなかったので、電話番号検索で調べてみたが、ヒットはしなかった。ヒットしなくても一応人間だろうな、でもあの廃屋の電話に人間がかけてもつながるのかとか、この段階では警察も取り合ってくれないだろうな、とかいろいろ考えた。さっそくタカシ2とマサオにメールを送った。3人の都合が合う2日後に落ち合うことにした。
 その結果、行かなきゃ大丈夫だろうと思っていたあの廃屋へ、もう一度行ってみることになった。大学の夏休みが終わるまでにということで、大学に入ってすぐに車の免許を取ったタカシ2の車に乗って、翌日、廃屋に行った。車だとあっという間だ。何をしたのかというと、あの廃屋に電話をかけてみることにしたのだ。これはマサオの提案だったのだが、マサオはこの数日間で何と40年近く前の電話帳を見つけ、廃村になる前の全世帯の電話番号を調べ上げていたのだ。むしろその執念が恐ろしい。
 十数軒と思っていたが21世帯あったようだ。前回廃屋に行った時は携帯圏外だったのだが、今回もまだ圏外のままだと現地で携帯からかけることができないので(折畳ガラケーの時代)、マサオが町に残り、決めた時刻になったら21世帯の電話番号に、順に携帯から電話をかけて廃屋の電話にかかるのか確かめるという作戦だった。

 タカシ1と2が廃屋の件の部屋に入ってまずビビったのが、タカシ1が放り投げた受話器が本体にちゃんと戻されていたことだった。3年も前のことだから、オレ達みたいなヤツラが来て戻したんだろうと思った。そしてマサオが電話をかける予定時刻を待った。マサオのほうはと言えば「現在使われておりません」が続き、やっぱりダメかと諦めかけた14軒目の番号を押した時、なんと電話がかかった。それはまさに廃屋の電話で、廃屋にいたタカシ1と2は、鳴るとは思っていなかったので、またもやビビって腰を抜かしてしまった。ビビりつつ電話に出ると、相手はちゃんとマサオで安心したのだった。
 
 これで分かったことがある。電話が生きていること、そのためには電話料金を払い続けている人がどこかにいること、だ。すなわち恐らくは、この半分潰れた家屋のこの電話を、何かの理由で通信手段にしている生身の人間がいること。

 相手が人間となると危ないのはタカシ1の実家だ。自分に何か仕掛けてくるのも勿論だが、家族に手を出してきたり、放火されたりしたらたまったものではない。かといって引っ越すのも現実的ではない。ありきたりだが、防犯カメラをつけてまず様子を見ることにした。タカシ1は、とりあえず夏休みの残りは実家にとどまることにした。
 カメラ設置1週間後、夜中2時半、タカシ1は玄関から聞こえる異音で目が覚めた。ピンと来て急いで防犯カメラを確認する。そいつは映っていた。Tシャツにジャージっぽいものをはき、胸くらいまでのボサボサの髪をした猫背の女。直感で言ってフジコだ。こいつがフジコだとしたら、どこからあんな若い女の声が出せるんだとタカシ1は思った。
 フジコらしき女は、玄関付近をうろうろして、時々玄関のドアノブをガチャガチャやっている。タカシ1は、間髪入れず警察に電話をした。警察が近づくことを女に気づかれないよう、付近ではパトライトとサイレンを消して欲しいと頼んだら、まずは所轄の交番の警察官を自転車で向かわせる手配をしてくれた。それはそれで時間がかかりそうだとタカシ1は思ったが、それが功を奏してかその女はあっさり捕まった。

 後日、警察から少し教えてもらったところによると、これまた漫画じみているが、フジコもシュンジ(フジコの旦那)も仕事が立ち行かなくなったことをきっかけに、犯罪に手を出すようになり、盗んだ貴金属や不正に得た証券だかの金目の物をあの廃屋に隠すようになったということだった。さらには、その犯罪を知って警察に届けようとしたフジコの妹をシュンジと共犯で○害し、そのタヒ体をあの廃屋の庭に埋めたらしい。新たな金品が手に入って隠す時や、遺骸が動物に掘り起こされていないかなど、たまに様子を見てもらうためシュンジに廃屋へ行ってもらい、その場の状況報告や指示を固定電話でやりとりしていたのだ。廃屋からの発信記録が残らないように、受け専用にしていたようだ。
 あの最初の電話でタカシ1がフジコから「そこを動くな」と言われたのは、もう到着したシュンジが電話に出るはずが別の人間が出たため、(シュンジが)じきに到着するから逃げるな、という意味だったに違いない。屋根が半分潰れていたのは、朽ちたからではなく隠した物やタヒ体が見つからないよう、かつ電話は使えるよう自分達で半壊させたのだそうだ。
 フジコは、今は廃屋のあの家に生まれ育ち、高校に進学して入寮したのを機に家を出てそれっきりだったが、両親が集落を出ることになった時、別荘みたいにたまに使えるかも、と軽い気持ちで電話と冷蔵庫だけ残し、電気の契約も継続したのだそうだ。

 そしてフジコには本名があった。それは教えてもらえなかったのだが、もしやと思い、「もしかしてルミですか?」とタカシ1が尋ねると、警察に「なんでそれを知ってるんだ」と驚かれた。廃屋で見た四角い缶はフジコいやルミのものだったのだ。ちなみに廃屋の電話でシュンジか、と聞かれたのはフジコの旦那の偽名だった。二人同士でも偽名で呼び合っていたのは、足がつきにくくするためだった。
 シュンジは、あの廃屋の電話を取った者タカシが、この町の人間だとアタリをつけていたという。それは、あの日廃屋にシュンジが車で向かう途中、3人の高校生っぽい自転車がぶつかりそうになりながらすれ違って行ったのを覚えていて、ルミから廃屋の電話を取ったヤツがいると聞いた時、「あの自転車の連中か、だったら地元だな」と推測したからだった。3人が逃げ帰る時にすれ違った車は、シュンジだったのだ。
 それから3年間にわたり、入手や閲覧ができる卒業アルバムやら何某かの名簿やらを片っ端から調べ、しまいには高校生を中心に町の住民に「タカシ」という知合いがいないか聞いてまわり、「タカシ探し」をしていたらしい。マサオが駅北のファミマで会ったのはまさしくシュンジだったのだ。学校によっては、「タカシ探し」には協力せず、その変なおっさんに会ったら警察に連絡するようおふれが出たとかで、それからは「タカシ探し」はなりを潜めた。
 シュンジとルミがタカシを探したのは、捕まえて話の内容によっては、抹殺するつもりだったという。ルミがタカシ1の声をたったあれだけの会話で覚えて忘れずにいたのは、そういう特技なのか執念なのか・・・。
 そんな大層な余罪が芋づる式に出てきて、3人はむしろ逮捕に一役買ったようなものだったが、廃屋とは言え私有地に侵入したことで少し警察のお咎めを受け、そしてルミ達の出所後にはちょっと不安が残されている。刑期も不明なので、今どうなっているのかはわからない。

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