見るんじゃなかった
投稿者:キミ・ナンヤネン (88)
僕が今の会社に就職してから10年ほどが経ち、ある程度貯蓄も出来たから、今住んでいる実家の近くで家を買いたいと思っていた。
そんな折、近所の区画整理が進んでいて、3軒の建売住宅が発売されると聞いた。
今の所何も予定は無いのだが、将来結婚するかもしれないし、いずれ家から独立しようとしていたからちょうどよかった。
もともとそこには古い神社があって、その周りは多くの木々で鬱蒼としていてあまり近づくことは無かった場所だ。
神社はかなり老朽化していて、区画整理のタイミングで近くに移転して建て替えられた。
その敷地の木々の半分ほどが伐採されると、残った木々の間に小さな祠だけが残った。
伐採されたその跡地にまず1軒だけが完成し、僕は早速契約を結んで最初の入居者となった。
あとの2軒の予定地には何かトラブルでもあったのか、着工が少し遅れるという話だった。
しばらくの間、ここには僕の家だけがポツンと1軒だけになりそうだ。
僕は会社で経理を担当している。経理部は会社の2階にあり、今日もいつものように受付横の階段から上がろうとしていた。
受付担当の女子社員は他の社員より少しだけ早く出社していて、突然の来客や電話などに対応ができるようになっている。
「(僕)さんって、いつも階段なんですね。」
突然、受付のA美さんから話しかけられた。
「え?ええ、健康のために…。」
僕はとっさにそう答えた。
社員のほとんどはエレベーターを使うが、正直なところ、僕はA美さんに少しでも近づきたいがため、階段を使っていたのだ。
翌日は
「(僕)さんって、家を買ったんですよね?凄いですね!」
「ただの建て売りですよ。」
毎日のようにそんな会話をしているうちに、A美さんと交際がはじまり、半年もしないうちにとんとん拍子に婚約まで進んだ。
この時、既にA美が妊娠している事もわかった。
そんな時にいいことは重なるもので、僕は経理部長に昇進した。
良いことはそれだけではなかった。
父がこの新居の2階の客間に泊まった事があったが、その翌日に病院に行くと持病がほぼ治りかけた事がわかった。
母が泊まった時には、時々起こる酷い頭痛が、その日を境にぴったりと治まったらしい。
これほどまでに良いことが続くと、その原因は、ここが神社の跡地だから何らかのご利益があったと思うしかない。
両親が泊まった2階の客間、そこは将来の子供部屋にするつもりだった部屋なのだが、そこに何かあるのかもしれないと思い、僕も試しにそこで一晩寝る事にしてみた。
その部屋の窓は夕方になると西日が入って来るから、いつもはレースの遮光カーテンを閉めているのだが、もう夜も遅かったのでカーテンを開ける事にした。窓からは木々に囲まれた祠が見えた。
「なるほど、もしかしたらあの祠に祀ってある何らかのエネルギーみたいなものをここで受け取ってるのかも…。」
そんな事を考えながら、僕は来客用の布団を敷いて中に潜った。
そんな些細なことで人生が一変する
そもそも祠に祭られてたのは何だったんだろう…?