見るんじゃなかった
投稿者:キミ・ナンヤネン (88)
その日はいつもよりも妙に寝つきが良く、すぐに熟睡した。
しかし、なぜか突然目が覚めてしまった。
この部屋には時計が無いのだが、辺りはまだ暗かったので、おそらく夜中の2時から3時頃だろう。
とりあえずトイレに行こうと思い立ち上がると、窓の外にぼんやりとオレンジ色の光がある事に気が付いた。
最初は近くの街灯か何かだと思ったが、この辺の区画整理はまだ途中で街灯なんて無かったはずだ。
そう思うと、その灯の光源を無性に確認したくなった。
窓から外を見ると、オレンジ色の光源はあの祠だった。
このあたりはまだ建物や住宅は少なく、祠を見る事が出来るのは多分この家くらいだろう。
つまり、祠の灯に気が付いたのは僕だけのはずだ。
僕は寝ぼけ眼で祠を見ていたが、祠の中の灯が灯っているか、それとも何かの儀式でろうそくでも点けているのか、よくわからなかった。
よく見ると、祠から発していた光は不規則にその明るさを変え、祠の中で光源の位置が微妙に変化しているようだった。
光は、祠の中でダンスでもしているのか、それとも苦しんで暴れまわっているのか、まるで生き物のようにも見えた。
「なんなんだ、あれ…。どうなってるんだ…?」
しばらくその祠を見ていると、突然その灯がフッと消えた。まるで僕が覗いていたのに気が付いて、誰かが慌てて灯を消したかのようだった。
祠の管理や点検をしている誰かが灯を消したのか、それともタイマーとかセンサーで自動的に灯が消えたのか…。
そんな事を考えながら祠やその周辺を見渡していたが、人影などは無いし、灯が消えてからは特に変わった事など何も無かった。
このまま見ていても仕方が無いので、トイレに行った後部屋に戻って来たが、祠の灯は消えたままだった。
再び布団に入ったが、今度は眠れないまま朝を迎えた。
いつものように会社へ行って経理部に入っていったが、部屋が何やら騒がしい。
「部長、大変なことが…!」
部下で平社員のBが慌てた様子で話しかけてきた。
「一体どうした?何かあったのか?」
「実は、係長のCさんが横領していたようです…!」
「どういう事だ!?」
話をまとめるとCの横領は本当で、社内の監査部の調査で発覚したようだ。
僕はCを完全に信用していたが、その手口は巧妙で僕には発見できなかったのだ。
幸い発見が早かったもののその額は数百万円あり、会社の規模からすると大きな額ではなかったが、経理部の責任問題となった。
当然僕は管理責任を問われ、退職せざるを得なかった。
そうなると、いずれ家のローンも破綻するのかもしれない。
そんな時に悪いことは重なるもので、A美は流産してしまった。
そんな些細なことで人生が一変する
そもそも祠に祭られてたのは何だったんだろう…?