餓鬼道に落ちたじいちゃん
投稿者:ねこじろう (147)
「お義父さん、そんな目で聡を見ないでよ。
もう十分食べたでしょ」
呆れたように母が言う。
じいちゃんは食卓の上に乱暴に箸を置くと、まるでオモチャを買うのを断られた四歳児のようにふてくされた態度で立ち上がり、何やらぶつくさ呟きながら部屋を出て行ってしまった。
じいちゃんは今年で八十八。
いつも紺色の渋い着物を着ている
真っ白い髪は伸ばし放題。
顔の輪郭は正に骸骨そのもので、いつも目をギョロギョロさせている。
あんなに食べているのに手足は枝のように細く、胸はあばら骨が浮いてきている。
そのくせに下腹だけはポッコリ出っ張っている。
まるで社会科の教科書に出てくる、鎌倉時代の仏教画の中に描かれた「餓鬼」のような風体だ。
ググったら「餓鬼」というのは、生前に贅沢をしたため、六道のうち餓鬼道に落ちた亡者をいうらしい
実際のところ、じいちゃんの食欲は半端じゃない。
どんぶりに山盛りの白飯を三杯ペロリと平らげた後も物欲しそうに指を咥えて、僕の食べているさまを眺めているんだ。
それでも諦めきれない時は、居間を出た後もドアを細目に開けて母の背中をじっと見ていたりする。
そんな時も母は無視してさっさとテーブルを片付け始めるのだ。
「さとし~、さとし~」
夜中になるとたまに僕の部屋のドアの前に立ち、恨めしげに声をかけてくる。
「なんだよ~」
眠い目を擦りながら返事をすると、そっとドアを開けて決まり悪そうに笑いながら入ってくる。
そして無言でいそいそと部屋の中を家捜ししだすのだ。
何を捜すのかというと、僕が夜食で食ったスナック菓子やチョコの残りかすをだ。
見つけるや否や「あった」と子供のように呟き、その場に座り込むとムシャムシャ食べ始める。
また、こんなこともあった。
僕の部屋は二階にあるのだけど、夜中に喉が渇いてジュースを飲もうと階段を降り薄暗い台所に入ると、流し台の横にある生ゴミダスターの前に誰かの背中が見える。
じいちゃんだった。
「じいちゃん?」
恐々声をかけると驚いた様子で振り返る。
口の中に何かいっぱい詰め込んで、2つの瞳を目一杯開いている
それからあたふたと台所から出ていった。
後から見てみると、生ゴミダスターの蓋が開けられており中が荒らされていた。
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お寺でお祓いした方がいいです。