餓鬼道に落ちたじいちゃん
投稿者:ねこじろう (147)
そんな食い意地のはったじいちゃんなのだが、昔はこんなことはなかった。
いつ頃からだろうか。
思い返すと、
それは去年のお盆に家族皆で墓参りに行った頃からだったと思う。
墓掃除を終えて家族皆で墓前に並び手を合わせた後、さあ帰ろうかと父が言った時、隣にいたじいちゃんがいないことに気付いた。
辺りを見回すと、うちの墓の2つ向こうの墓前に立って何かムシャムシャ食べている。
どうやらお供え物の菓子に手をだしていたみたいで、気が付いた父が駆け寄り菓子を取り上げると、真っ赤な顔をして怒っていた。
後からじいちゃんに聞くと、腹が減って堪らなくてつい手をだしてしまったと言っていた。
じいちゃんは見た目も以前と変わってきているようだ。
相変わらず下腹は出っ張っているのだが、枝のような手足が以前よりも長くなってきているみたいだ
そして首も。
背丈も恐らくは4、5センチ高くなったように見える。
遠目で見ると、まるで巨大なアメンボウのようで変だ。
変というと最近こんなこともあった。
僕が部屋で飼っているせきせいいんこの「ピーコ」が、いつの間にかいなくなってしまった。
鳥かごの辺りには白い羽がいっぱい散らばっていた。
さらにもう一つ。
母が可愛がっているとらねこの「虎太郎」も、ここ一週間ほど見かけない。
今週始めには学校の帰り道に友達からこんなことを言われた。
「この間さあ、夕方お前の家の近くの路地でお前んとこのじいさんを見かけたんだけど、ホント心臓止まるくらいびっくりしたぞ」
「どうして?」
「口をモグモグさせながら夢遊病者みたいにふらふら歩いていたんだけど、顔が青白くてさ口の周りが血だらけでな、よく見ると口の端から鳥の足みたいのがとび出てたんだ。一体何食ってたんだろうとビビったよ。とりあえずあいさつしたんだけど、一度だけジロリとこっちを見ただけで後は何かぶつくさ呟きながら行ってしまったよ」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
そして昨晩の夕食時、家の呼び鈴が鳴った。
父が玄関のドアを開けると、制服姿の警察官が二人立っている。
「夜分にすみません。実は三日前からこの町内にお住まいの田中さん宅の四歳児の娘さんがいなくなってしまったようで」
そう言って父と僕に顔写真付きのビラを手渡すと、「何かあれば、ご一報を」と言って帰って行った。
僕は父と顔を見合わせ二人してゴクリと生唾を飲み込むと、ゆっくり後ろを振り向く。
二人の視線の先。
居間のテーブルに座ったじいちゃんは、ただ黙々とご飯を食べていた。
お寺でお祓いした方がいいです。