兇器をあなたに
投稿者:件の首 (54)
私はその日、副業としている料理の配達でとある一軒家を尋ねた。
「ああ、どうもどうも!」
愛想良く出迎えたのは、中年の男だった。
「いやぁ、パーティーの準備は忙しいもんですね」
言いつつ、料理を受け取り部屋の奥へ運んでいった。
配達後、次の配達がないかスマホを確認したところ、また同じ家への配達が入っていた。
パーティーと言っていたから、あちこちから色々料理を集めているのだろう。
そう思い、受注しようとしたが、これは別の人に取られてしまった。
ひょっとして、と思い少し離れた場所で確認してみると、更に同じ家の配達があった。
結局、配達は10件以上あったようだ。
料理は様々で、弁当や釜飯など、あまりパーティー向きでないものもあった。
次の週末、また同じ家の注文があった。
この時は結局7件運んだ。
それがもう3回ほどあってから、ぱたりと注文はなくなった。
テレビでワイドショー番組を見ていたところ、とある事件が目に留まった。
男を拉致監禁して拷問の上殺害した事件だった。
はっきりした動機は不明で、怨恨というよりも遊び半分だったらしい。
拷問内容は多岐に渡ったようで、様々な暴力で痛めつけられていたが、直接の死因は多量の食物を口に詰め込まれた事による窒息だったという。
食べ物による拷問は繰り返されており、限度を超えた量を食べさせられ、消化器は激しい炎症を起こしていたとの事だ。
被害者宅こそ映っていなかったが、ワイドショーのリポーターが歩く道は、あの多数の注文を出した家の近所だった。
まさか同一の家という事もないだろう。根拠はないが、確率で考えれば、そうそうない事だ。
だから。
この事件に私は決して関わっていない。
結果的に私が兇器を運んだ、なんてのは、悪い冗談だ。
そうに決まっている。
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