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ふろんさんによる不思議体験にまつわる怖い話の投稿です

さよならの壁
短編 2022/10/03 05:18 2,513view
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私の通っていた大学には『さよならの壁』と呼ばれている壁があった。
教育学部3号棟の東側の壁のことである。
その壁には実際にさよならと書かれており、消したりペンキで上塗りしたりしても、そのうちにさよならという言葉が浮かび上がってくるそうだ。なんでも付き合っていた女性にこっぴどくフラれた学生がいて自殺する前に書いたらしい。

私はこの壁の真相を先輩から聞いた。

私は当時学生寮に住んでいた。築何年も経っている男子寮だ。口の悪い友人は住所からとって朝倉プリズンなどと呼んでいた。
友人がそう呼ぶ気持ちもわかる。寮には独自の規則があったり、部屋の壁の落書きも凄かった。だが、住めば都、寮内の友人や先輩と楽しく暮らしていた。

件の先輩とも寮内の生活を通して親しくなったが、少々不思議な存在でもあった。例えば、寮の規則では半年に1度部屋を変わることになっていたが、その先輩は1回生の頃から3年間ずっと同じ部屋で生活していた等々。しかし、その理由こそ『さよならの壁』の真相であった。

ある時私は先輩の部屋に呼び出された。
私はいつも通り、飲みの誘いかと思い先輩の部屋に行った。先輩の部屋も私の部屋と同じく、壁には年季を感じさせる落書きでいっぱいであった。私の部屋と違うのは寮内は全て2人部屋なのに先輩は1人で生活しているということだ。当時の私は、まぁそんなこともあるか、1人部屋で羨ましい程度にしか思っていなかった。

先輩の部屋に呼ばれた理由はやはり飲みの誘いであった。しかし、この日は酒が進むにつれて先輩が妙なことを言い出した。
「さよならの壁ってあるじゃない?あれって俺が書いてるんだ」
私は何を急に言ってるんだと思った。
「さよならの壁ってフラれた男子学生が書いたことになってるでしょ。その学生が住んでたのがこの部屋なの」
私は酒の席の冗談だと思って真剣に取り合わなかった。
「まぁなかなか信じられないよなぁ。でも、この部屋いつもと違わない?」
先輩はどうやら本気で言っているらしい。
私は先輩の言葉につられて部屋をよく見て、ハッと気づいた。
「分かった?」

部屋の落書きが多い。
元々落書きの多い部屋だがその落書きの隙間にさらに書きこまれている。

さよなら

その言葉が落書きの隙間にいくつも見える。
私が驚いて言葉を無くしているところへ先輩がさらに言った。

俺が1回生の頃に先輩から聞いた時もそんな感じだったよ。
だいたいこの時期になるとこの部屋の壁にさよならって言葉が浮かび上がってきて、教育学部3号棟の壁にさよならって書くとだんだん消えていく。何で直接あっちの壁に浮かび上がらないんだよって思ったけど、先輩はここで生活してたからこの部屋に特別思いが強いんじゃないかって言ってたよ。
こんな部屋だからみんな気味悪がってこの部屋にはあんまり来たがらない。俺は仕方ないからずっとここで生活してるってわけ。でも、ほんとはちょっとおもしろがってもいる。オカルト関係は好きだからね。
でだ、オカルト好きな俺としてはちょっと実験してみたくなった。『さよなら』と書かなかったらどうなるんだろうねってね。
2回生の頃は部屋の壁にさよならって浮かび上がってきたら、普通にすぐに書きに行って問題なかったし、ちょっと慣れたのかもな。

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