さよならの壁
投稿者:ふろん (5)
「どうなったと思う?」
先輩はいたずらっぽく笑うとそう言った。
私は先輩の話に圧倒された。とても信じられないが大学の壁には確かにさよならと書かれており、この部屋の壁にもさよならという言葉がいくつも書かれている。
…どうなった?
これだけじゃ…ない…?
そう考えが至ると今まで楽しく飲んでいた部屋が何だか得体の知れないもののような気がしてきた。私は慌てて周囲を見てみる。
左の壁を見る。
…さよなら
右の壁を見る。
…さよなら
部屋の真ん中を見る。
先輩が笑いながら、いや、よく見ると目は笑っていない、上を指さす。
天井を見る。
さよならさよならさよならさよならさよなら
私は部屋の温度が下がり、空気が凍ったような感覚に囚われた。
「でも、この先もあったんだ。」
…この先?まだ書きに行かなかった?!
先輩は今度こそ真面目な顔になって着ていた服を脱ぎ、私に背中を見せた。
私はその背中を見てフッと気が遠くなった。
その後、2人で大学の壁にさよならと書きに行き、しばらくすると先輩の背中、部屋の天井や壁に書かれた文字も消えていった。
先輩の部屋を引き継がされた私は滞ることなくこの伝統行事をこなし、規則通り半年で部屋を変わった。
私は大学を卒業し数年たったが、この時期になると部屋の壁を見るのが今でも癖になっている。
当時は自分の部屋や身体に起こる怪異が怖かった。しかし、あの部屋を離れた今となっては、亡くなったとしても生きていたとしても、そこまで執着する心こそが怖いと思う。
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