宿の法被を着た男
投稿者:pams (61)
数年前、旅行に行った時の事です。
友人が予約してくれたその旅館は家族経営で一見古民家のような雰囲気でした。
中に入るとやけに階段と廊下が入り組んでいるように感じました。理由を聞くと10年前に増築したせいでこういう複雑な作りになってしまったのだそう。
部屋に通され一服した私は早速露天風呂へ向かいました。
古く広い露天風呂に一人ぽつんといる私。湯気で岩の向こうは見えずちょっと怖い感じがしましたが、こんなに広いお風呂を独り占めできるなんて滅多にありません。じっくりと入って温まりました。
堪能した私は電気がチカチカと切れかかっている脱衣所で浴衣に着替えスリッパをパタパタと鳴らし、階段を上がり部屋に…戻るはずでした。
しかし、部屋がありません。階数を間違えたのかと思い降りましたが、なぜか通された番号数の部屋がないのです。
増築で複雑な構造になっていると仲居さんが言っていたので、これは迷ったなと思いながらずんずん進むとエレベーターがありました。
でも「故障中」張り紙が。茫然と立ちすくんでいると後ろから旅館の法被を着た30代くらいの男性スタッフに「お客様のお部屋は階段でしか行けないんです。お戻りください」と言われました。部屋番号を言うと戻り方を教えてくれました。
翌朝、チェックアウトの際に「昨日お風呂の後、迷子になってしまって若い男性スタッフさんが声をかけてくさたんです。
よろしくお伝えください」と言うとキョトンとされました。そして「うちは家族経営で男は60代の父しかいませんが…」と言われたのです。
この家族全員と同じ法被を着ていたあの男性は誰だったのか、今でも思い出すと寒気がします。
でも親切な方で良かったですね。