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ヒトコワ

希子さんによるヒトコワにまつわる怖い話の投稿です

ハンカチ・ストーカー
短編 2021/02/04 21:13 3,595view
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私の友人女性から聞いた話です。

彼女は今50代ですが、若い頃にヨーロッパに数か月間、留学をしていました。色々な国から来た学生たちとともに、大学の語学コースで勉強していたのですが、ある時奇妙なプレゼントをもらったそうです。それは講義の合間、席を外した時にバッグの中に押し込まれていたそうで、丁寧に包まれた包装紙の隅に「〇〇さん(彼女の名前)へ」と書かれていました。開けてみると、とても豪華な花柄のハンカチが入っていました。

クラスメイトたちに聞いても誰も知らず、変だなあと思いつつも、彼女はその美しいハンカチを気に入ってしまいました。とりあえず自分あてに来たものだし、とさほど深く考えずに所持していたそうです。

その少し後、学生寮から学校へ向かう市電の中で、彼女は毎朝妙な気配を感じるようになりました。日本と違って満員電車ではないのですが、どうも不自然な形で体を押し付けてくる人物がいるのです。さっと身を引いて移動しても、またすぐにすり寄ってくるので顔を確認してやろうと思うのですが、ひどく巧妙に群衆の中に紛れ込まれてしまい、結局特定はできません。それが重なったので、友人は同じ寮のクラスメイトと一緒に通学をするようになりました。

この国にも痴漢はいるんだなあ、くらいの感覚で忘れかけていると、今度は一人でカフェテリアや緑地に居る際に、妙な視線を感じ始めたのです。典型的なストーカーだと思って事務に相談しましたが、具体的な対策を講じられることはありませんでした。

得体の知れない気持ち悪さが続きましたが、コース終了日が近づいていましたので、区切りのテストに向かって勉強に集中する必要もありました。学校の図書館で夜遅くまで勉強した後、ふと校内の暗がりを通った時です。がしり、と二の腕を掴まれて、そのまま緑地の影へと引きずり込まれたのです。その人物は手で彼女の口をふさぎ、耳元に口を寄せて囁きました。

「ハンカチ、気に入ったんだろう。お前は、俺のものだ」

有難いことに、友人には護身術の心得がありましたので、人物の向う脛をめがけてブーツのかかとを蹴り上げ、ひるんだ拍子に一目散に駆け出したのです。彼女は学内事務ではなく、近所の警察に飛び込んで一部始終を話し、こちらでは早急に監視カメラを確認すると言われました。無事に学生寮にたどり着き、ほっとしたのですが、自室のドアを開けた瞬間に固まったと言います。

ドアの隙間から入れたと思われる、メモ用紙が床に落ちていました。

『おまえは悪い女だ。お仕置きが必要だ』

彼女はそのまま自室に入らず、同じ階に住んでいるクラスメイトの女性の部屋で夜を明かしました。「このまま寮に住んだら、あのストーカーに襲われる」と危険を感じたので、それから帰国までの約1週間は、市内のホテルを転々としたそうです。

危機一髪のところで難を避けられた友人ですが、ずっと後になってから、あのハンカチを受け取ってしまった事がそもそもの誤りだったと思い知りました。例えば香水や化粧品など、身に着けるものを贈る事で、女性を自分の所有物としてマーキングする、という独善的な考え方があるようなのです。そんなこととはつゆ知らず、友人はうっかり美しい贈り物にほだされてしまったわけですが、私はこの話を聞いて、ものすごく背筋が寒くなりました。

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コメント(2)
  • これが日本なら匿名のハンカチなんて気持ち悪くてすぐに捨ててるところだけど外国人から贈られたものだと油断しちゃうのが日本人女性っぽいよね

    2021/02/05/13:35
  • 前コメ、分かる
    外国人への過剰な許容かな

    2021/02/09/07:48

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